バズーカの弾丸を込め替えた「黒田日銀総裁」残りの弾倉

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 日本銀行はわが国の金融史上初めて、「マイナス金利政策」の導入を決定。量的拡大から質的拡大へと金融緩和手法を大転換する。いわば黒田バズーカの弾丸を込め替えたわけだが、残りの弾倉で、果たしてデフレ脱却を達成できるのか。

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 賛成5、反対4――1月29日に開かれた日銀の金融政策決定会合の採決は賛否が拮抗。金融機関が日銀に任意で預けるお金にマイナスの利子をつける政策については、当の黒田東彦総裁自身が、

「検討もしていないし、考えが変わることもない」

 とニベもなく否定し続けてきただけに、日銀の政策委員らばかりか、多くの市場関係者が虚を突かれた。

「年初より日経平均株価が3000円も下落していましたが、マイナス金利の導入で、株価は2月1日には1万8000円近くまで戻しました。記者会見で黒田総裁が物価上昇2%の目標を先送りしたように、政策転換は、むしろ株価を維持したいアベノミクスへの援護射撃では」(大手証券幹部)

 その後の株価は1万7000円台で一進一退。劇的な株高円安を演出した黒田バズーカ第1弾や第2弾に匹敵する効果があったとまでは言い難い。そもそも「マイナス金利政策」がもたらす効用を、元モルガン銀行東京支店長で、おおさか維新の会の藤巻健史参院議員が解説する。

「私は20年前から景気回復策としてマイナス金利政策を実施すべきと提唱してきました。この政策下では民間銀行が日銀にお金を預けると、無駄に金利を取られてしまう。銀行は日銀に預けるより、企業融資に回そうとするので、資金を得た企業が経済活動を活発化させると言うわけです」

■中小企業への貸し渋り

 なぜ黒田総裁はマイナス金利に踏み切ったのか。

「黒田さんが、量的緩和に限界を感じたからだと思います。インフレ目標2%は実現できず、仮に3度目の黒田バズーカを放って物価上昇を引き起こせなかったら、市場はこれまでの量的緩和に何の意味もなかったと捉える。そうなると円は信用を失い、株も大暴落。日本総売りになる前に、別の政策を採らざるを得なかったのです」(藤巻参院議員)

 込め替えた弾丸が総裁の思惑通り、企業融資の増加につながるかと言えば、

「いまの日本の大企業の内部留保は史上最大と言われています」

 と語るのはシグマ・キャピタルの田代秀敏チーフエコノミストだ。日本の金融・保険業を除く、全企業の内部留保の合計額(2014年度)は、実に354兆円を超える。

「社内留保が豊富な大企業には資金需要はなく、融資を必要としているのは留保がない中小企業ばかり。貸し倒れを恐れて、銀行は貸せません」(田代氏)

 2年前にマイナス金利政策を導入したECB(欧州中央銀行)も、はかばかしい成果は上げていない。

 エコノミストの中原圭介氏はこう言う。

「欧州でも企業に資金需要がなく、融資が発生しないため機能しませんでした。マイナス金利政策で無駄に利息を日銀から取られる銀行は収益が減り、経営が悪化する。中小企業への貸し渋りが起き、不況が訪れます。マイナス金利は、“効果”と考えられる融資が増えないだけでなく、副作用ばかりが起きるデメリットだらけの政策なのです」

 残りの弾倉に弾丸を込める前に、バズーカの照準をいま一度調整してみては。

「ワイド特集 崖っぷちの歩き方」より

週刊新潮 2016年2月11日号掲載

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