「森林浴」でナチュラルキラー細胞を活性化させるためのコツ 「自己免疫力」を徹底強化する最新技術(5)

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 6万年前、人類は密林が茂り、灼熱の太陽が照りつけるアフリカの大地を出て、あらゆる大陸へと旅立って行った。人類進化の大きな転換点、「出アフリカ」である。その後、人の30%はがんで死ぬようになったが、森に残ったチンパンジーのがん死亡率はわずか2%という。人間のがんリスク上昇には、紫外線不足によるビタミンD欠乏など様々な要因が指摘されている。そしてもう一つ、宿痾の原因としてある力の喪失が考えられるという。森林が秘める癒しの力だ。

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 その力は決してイメージやスピリチュアルの世界のものではなく、今や科学的、統計学的に実証されつつある。「森林セラピー」という予防医学に取り組む、日本医科大学医学部准教授で、NPO「森林セラピーソサエティ」理事の李卿医師はこう唱える。

「医学的なエビデンスに基づき、予防医学の観点で森林浴を健康に関与させているのが、『森林セラピー』です。それを実験結果などで科学的に評価しようというのが、『森林医学』。この探究がスタートして約10年間、ずっと森林浴の研究を続けてきましたが、生活習慣病予防など様々な健康効果があることが分かってきました。その重要な効能の一つが、NK細胞活性によるがん予防なのです」

森林浴後のNK活性の推移

 上のグラフをご覧頂きたい。これは2006年、30~50代の日本人男性12名に長野県上松町の赤沢自然休養林で2泊3日の森林セラピーを受けさせ、その後1カ月間のNK活性の数値を追跡調査したものだ。被験者は檜林の中を日がな一日、散策したり、ベンチに腰掛けて景観を楽しんだりするだけ。結果、森林浴前に平均18%だったNK活性が、セラピー終了1日後、約26%に上昇。2日後には27%、7日後で26%、30日後でも22%と、その効果は長く持続した。

 一方、その下のグラフは2007年、長野県信濃町の「癒しの森」で、生理周期がほぼ同じ20~40代の女性13名を被験者とした、2泊3日の森林セラピーによるNK活性の調査結果を表したものだ。女性でもほぼ同様の数値が得られている。なぜNK活性が上昇するのか。

「森林セラピーは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を通して効果を得るものです。なかでも重要視されるのが、森林特有の香りである『フィトンチッド』。樹木などの植物が発散する、殺菌力を持つ揮発性物質のことです。このフィトンチッドが呼吸で血液内に吸収されると、免疫系に直接作用し、NK活性を高めてくれる。まだメカニズムは明らかになっていませんが、実験では、NK活性だけではなく、NK細胞の数、またそれが細胞内に持つ抗がんたんぱく質の量も増えることが証明されています」

 またフィトンチッドには、ストレスホルモンを減少させる効果もあるという。国立研究開発法人「森林総合研究所」環境計画研究室の香川隆英室長が語る。

「2005年から2007年にかけ、385人を対象にした、森林浴のリラックス効果の実験では、コルチゾールというストレスホルモンの濃度が平均で12・4%低下する結果が出ています。ストレスはNK細胞の働きも阻害する。フィトンチッドなどはこれを軽減することでも、NK活性を高めているものと思われます」

 もっとも仕事などで忙しく、「遠出できない」「時間が取れない」という人も多いだろう。その場合は、自宅近くにある緑の多い公園などで日帰り森林浴を行うだけでもOKという。李医師はこう話す。

「森林浴は、滞在時間が長い方がより有効なので、月1回、2泊3日の森林セラピーを受けるのが理想。でもそれが難しい人は、日帰りでも良いので、月に1度は緑豊かな公園などに出かけましょう。私の最終目標は、より信頼度の高い臨床データを提示し、森林セラピーが保険適用されること。“あなたの症状には、この森がいいでしょう”と、薬ではなく、森林を処方できるようになるのが夢です」

「特集 厳冬に負けない『鋼の身体』に鍛える! 『自己免疫力』を徹底強化する最新5つの技術」より

週刊新潮 2015年12月31日・2016年1月7日新年特大号掲載

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