「犬神家」オリジナル版で「市川崑」生誕100年祭

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 つかみ切れない監督……。

 映画史研究家の春日太一氏は、そう捉えていた時期があったと新著『市川崑と「犬神家の一族」』(新潮新書)の中で明かしている。

 その市川監督の生誕100年を記念した映画祭が1月16日より東京・角川シネマ新宿で開催される。角川映画の旧作活性化プロジェクトの一環でもある。

 しかし、国内外で受賞も多い巨匠がなぜつかみ切れない監督なのだろうか……。

〈驚くほどに一貫性がないことに気付かされます。『犬神家の一族』にはじまる金田一耕助シリーズなどのミステリー、『日本橋』『炎上』『破戒』『細雪』といった文芸作品、『ビルマの竪琴』『野火』などの戦争映画、『黒い十人の女』『私は二歳』といったブラックコメディ、『木枯し紋次郎』『股旅』などの時代劇(中略)ありとあらゆるジャンルの映画を撮ってきました〉(『市川崑と「犬神家の一族」』より)

 しかも、自ら企画した作品は10本もないという。依頼を拒まず、その上アートにしてしまう巨匠だった。

 だから、脚本を書いて撮影に挑んだ『東京オリンピック』(1965年)は大臣を巻き込んで、記録か芸術か、という大論争にまで発展したことも。また『股旅』(73年)に主演した萩原健一は自身の著書でこうまで言い放っている。

〈彼の手法は、いつも細かいテレビのカット割りなんだ。それもまた、彼流のテクニックなんだろうけど。市川崑の『編集マジック』とかよく言われるけど、目まぐるしくて(中略)俺、大嫌い、市川崑〉(『日本映画[監督・俳優]論』より)

 賛否両論のカット割り、それは監督がアニメーター出身だから、と春日氏は分析する。その集大成が『犬神家の一族』(76年)とも。

 金田一の石坂浩二が高峰三枝子に、事件の種明かしをするシーンが迫力満点だったと記憶する方も多いだろう。そのマジックとは? その集大成をなぜ最後に撮り直したのか? さらに巨匠を「壊した」女優とは?

 列挙した作品はリメイク版『犬神家〜』とドラマ『木枯し〜』を除き、映画祭で上映される。読んでから見るか、見てから読むか?

週刊新潮 2015年12月31日・2016年1月7日新年特大号掲載

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