がん放置療法「近藤誠」医師の7つの嘘――大場大(東京オンコロジークリニック院長)

ライフ週刊新潮 2015年9月3号掲載

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■「放置」の立証責任

 さらに、子宮頸がん検診の有効性についても、近藤氏は噛みつく。インドで15万人余りの女性を対象に、「子宮頸がん検診を受けた人」と「非検診の人」を比較する試験が行なわれた。発見された初期の病変に適切な治療が施されることで、子宮頸がんの死亡率を31%も下げることに成功したという論文――。この信頼性が低いというのだ。

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6 がん検診の有効性を絶対に認めないスタンス

 その理由を伺うと、「研究設定がクラスター・ランダム化試験だから」という。これは、個人ではなく、地域や施設など、クラスター(集団)単位で振りわけられた比較を指します。

 これでなぜ信頼性が落ちるのか理解ができませんが、専門的な話になるのでその議論はここでは割愛します。

 代わりに彼が持ち出してきたのは、スウェーデンの論文です。それを披露したうえで、「上皮内がん100人中99人のがんは、自然消退するから大した病気ではない」と言います。しかし、それこそ数多ある信頼性の低い観察研究のひとつに過ぎません。

 しかもそれを根拠として、かの国で子宮頸がん検診を実施していないかと言いますと、そんなことはない。それどころか、政策として子宮頸がん検診に最も力を注いでいる国のひとつなのです。

 世界各国で子宮頸がんの検診が進められているのは、医学界の陰謀ではなく、死亡率を下げることを証明する多くの論拠が存在するから。海外で出たネガティブな結果をひとつやふたつあえてもってきて、がん検診すべてを否定してしまうステレオタイプな見方を読者はどう思われるでしょうか。

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 近藤氏はいつものことながら、高らかにこう宣言する。〈がん治療で寿命が延びる根拠はなく、逆に合併症や後遺症という不利益は明確にある。がん治療を受けないほうが長生きすると確信しているし、声をあげ続ける〉

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7 「医師」と「思想家」の顔を都合よく使い分ける

 近藤氏がズルいのは、「医師」という肩書があるにもかかわらず、従うのが前提の「医学」のルールを無視して、なおかつ「証拠を出せ」と開き直っている点です。別の言い方をすれば、彼を批判する医師は「医学」という土俵で戦っているのに、近藤氏は「医学」と「思想」のふたつを巧みに使い分けているわけです。

 医師として言論活動をしている以上、意見を言うには、冒頭でも示したように近藤氏自身が証拠を示す必要がある。医学界がおかしいと対峙し続けるのであれば、医師としてではなく、思想家として言論活動を行なうべきでしょう。

 そのような自家撞着こそが最大のバイアス(偏り)であり、それに引き寄せられた無知な患者が不利益を被ることだけは、決して許容されるものではないのです。

大場大(東京オンコロジークリニック院長)

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