「ドクター秋津」のがんになるのはどっち? PART2――秋津壽男(総合内科専門医・秋津医院院長)

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■「家風」も疑え!

 最後のお題として、「生活習慣」や「食」を見直す努力だけでは、排除できないリスク要素についても触れておきましょう。

「うちはがんの家系なんだよね」――。こうした、がんの遺伝にまつわる話をよく耳にしますが、この認識に潜む勘違いです。

【Q5 親兄弟が「肺がん」と「大腸がん」、遺伝が関係するのはどっち?】

 遺伝性のがんが存在するのは事実です。しかしながら、「父親が肺がん、母親が乳がん、兄も胃がんになったから、うちはがん家系」と言う人がいますが、肉親が様々な種類のがんに罹患している場合は、世間一般のイメージとは異なり、「がん家系」とは言えません。「○○家には、大腸がんの人が多い」という、特定のがんリスクの遺伝を指すのです。特に遺伝リスクの高いがんは「大腸がん」「乳がん」「前立腺がん」の3つです。そのため解答は「大腸がん」となります。

 アメリカの人気女優、アンジェリーナ・ジョリーは2013年、遺伝子検査で、「BRCA1」と呼ばれる「がん抑制遺伝子」に生まれつき異常があることが判明しました。それにより、乳がんと卵巣がんの発症確率が格段に高くなる。医師から「乳がんになる可能性は87%」と診断されたことから、彼女が2つの乳房の切除に踏み切ったことはご承知の通りです。さらに、その後、卵巣と卵管の予防的切除も行いました。彼女の場合、母親も56歳で卵巣がんと乳がんを併発し、若くして亡くなっている。叔母も乳がんで逝去している。確かに遺伝の可能性は極めて高いと言えるでしょう。

 一方、例えば胃がんは基本的に遺伝しません。親兄弟の全員が胃がんで亡くなっているのなら、遺伝より「家風」を疑うべきです。家族全員が塩辛いものや、熱い食べ物を好んだりすると、その家の胃がん発症率は上がってしまいます。減塩を心がけ、胃腸に優しい食事に変えれば、がんを予防することができるのです。

 ただし、「大腸」「乳」「前立腺」以外でも、複数の身内が同じがんで、なおかつ60歳前に亡くなっている場合は「がん家系」である危険性があります。

 まず自分の親類がどんながんで亡くなっているか、知るところから始めましょう。それによって、「がん家系」が疑われる場合は、そのがんに対するがん検診を定期的に受けるよう、心がけてください。目指すべきは、早期発見・早期治療。遺伝性のものを初め、多くのがんは、早期の治療でその9割が完治するからです。

秋津壽男(総合内科専門医・秋津医院院長)

週刊新潮 2015年7月30日号掲載

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