【渾身レポート】日本の「技術の現場」は巨大で精密で夢がある!――成毛眞(HONZ代表・元日本マイクロソフト社長)

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夢の発電で世界を牽引

 夢があるといえば、静岡県に拠点を置く光技術の会社、浜松ホトニクスの進めている核融合発電にもまた、壮大な夢がある。

 同社は、ニュートリノの観測でノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんが建造した、大型実験装置カミオカンデの光電子増倍管という部品をつくったことで知られている。だが、今回、私が茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究施設を見学したときも、フランスとスイスの国境にある欧州原子核研究機構(CERN)を訪れたときも、必ず浜ホトの名を聞いたし、浜ホトのロゴの入った装置を目撃した。あまりに耳にし目にするので、研究者たちに、なぜ浜ホトのものばかりなのかと尋ねてみると、「世界中どこを探しても、浜ホト以外にはつくれないから」という極めてシンプルな答えが返ってきた。

 その浜ホトが、夢の発電と言われる核融合発電の技術開発を、分厚い壁に囲まれた実験室で進めている。

 核融合とは、太陽の内部で繰り返されている現象で、2個の水素原子核が合体して1個のヘリウム原子核に変換され、そのとき大量のエネルギーが放出されるというものだ。現在の核分裂型原子力発電と比べて制御しやすく、核廃棄物もほとんど発生しないため、実現すればエネルギー問題や地球温暖化問題を解決できると期待されている。

 ただし、太陽の内部では当たり前の現象も、人工的に起こすのは大変難しい。用いるのは重水素という安全で比較的手に入りやすい物質なのだが、その物質同士を超高速で衝突させる必要があるのだ。では、重水素なるものを、どうやって衝突するのか。現在、研究が行われているのは、大きく分けると、超高温にして磁気で閉じ込める方式と、レーザー光を使って一気に圧縮させる方式があり、浜ホトは後者の実用化実験に使われるレーザー装置や燃料の開発で世界をリードしている。

 使われているのは固体レーザーと呼ばれるタイプで、浜ホトは、それにパワーを与える超高出力半導体レーザーの開発で一日の長がある。核融合は、米ロッキード・マーチィン社が昨年10月に「10年以内に小型の核融合炉を実用化できる」と発表するなど、話題になることが増えてきた。だが、浜ホトは、ハイパワーの半導体レーザーの実用化は難しいのではと言われていた時代から、レーザー核融合を見据えた研究開発を進めてきたのだ。

 ロッキード社に触れたところで、アメリカの新エネルギー企業の話題に少し付き合ってほしい。ほかにも次世代のエネルギーに取り組んでいる企業がある。テラパワー、そして、トライアルファ・エナジーだ。テラパワーは次世代原子炉の開発を行っており、トライアルファ・エナジーは核融合技術の開発を進めている。

 実は、テラパワーにはビル・ゲイツが、トライアルファ・エナジーにはポール・アレンが、それぞれ出資している。ビルとポールは、米マイクロソフトの共同創業者だ。

 なぜソフトウェア畑を歩んできたビルとポールが今、次世代エネルギーに注目しているのか。もちろん、それがビジネスとして有望だからでもあるだろうが、私には、もう一つ理由があるように思える。

 マイクロソフトは、シリコンバレーで設立された数年後、Windows誕生以前の段階で、日本とヨーロッパに拠点を構えていた。最初から地球規模、今でいうグローバル展開を見据えていたのだ。当時は小さな会社でも、小さいまま留まることなど考えてもいなかった。創業者の野心には子供の頃の原体験が大きく影響しているのではないかと私は思う。

 ビルは私と同じ1955年生まれ、ポールは2歳年上の53年生まれである。だから少年時代に、人類が月に降り立つ様をテレビで見ていた。当時、自分が将来どんな仕事に就くかは想像できていなかったが、画面に釘付けになりながら、こんな風にスケールの大きなことをしてみたいとは強く思っていた。

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