初めての獲物エゾシカに止めは刺せなかった 「狩りガール」狩猟の現場報告(3)

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 にわかに注目を集める、自ら狩猟を行う“狩りガール”。2014年初めにデビューしたばかりの新米“狩りガール”、ありさん(33)が猟銃を携え、果敢に挑んだ緊迫の狩猟現場を自ら報告する。猟に興味をもち、狩猟免許を取得後、初猟に参加したありさん。日没の迫るなかでラストチャンス。エゾシカを前に引き金を引いた。

 ***

 エゾシカはドサッという音を立て、倒れ込んだ。

「当たった……」

 という手応えとともに、痛いくらいに心臓がバクバクと鼓動しているのがわかった。

 ところが、私の撃った弾はエゾシカの背中に当たり、絶命させるには至らなかった。突然、前脚をバタつかせ、その場を逃れようとし始める。3メートルくらいにまで近寄り、止めを刺すために頭部に銃口を向けた。必死に生きようとするエゾシカを目の前にすると、腕の震えが止まらなかった。

 息遣いも聞こえるくらいの距離に近づいたものの、結局、撃つことはできなかった。

「日没だ。ここまで」

 ガイドハンターが宣言し、タイムオーバー。止めは、ガイドハンターがナイフで頸動脈を切断した。

 狩りガールデビューの獲物は、生後8ヵ月のエゾシカの雌だった。

■脂身が絶品

 私がこれまで、直接この手で撃ち倒した獲物は、北海道でのエゾシカだけだ。

 そのときの記憶を回想しながら、檜原村での“巻き狩り”で獲った牡鹿を狩猟小屋に運んでいった。

 牡鹿は解体するために、ホースで水を掛けながらブラシで汚れを落とした。

 腐敗しやすい内臓はすぐに取り出さなければならない。肛門のまわりに円状に刃物を入れ、腹を裂き、手早く取り出す。内臓は、ほとんど猟犬のエサになる。

 だが、地元猟師は心臓を取り分けると、端を切り取り、刃物で×印をつけてから近くの木の枝に刺した。

 なにをしているのか、と訊ねると、

「山に還すのさ。ここのおまじない」

 次の猟でも獲物が得られるようにとの祈りの儀式なのだという。

 内臓を抜かれた鹿は、肉を熟成させるために、狩猟小屋の倉庫に1週間ほど吊るされる。そこまでの作業を終えてから、その日2つめのイベント、猪の解体が始められた。実は、私は1週間前も檜原村の”巻き狩り”に参加していた。そのとき、体重110キロの大物の猪を仕留めたのは、やはりセンセイだった。

 牡鹿と同じように吊るして肉を熟成させたその猪を、まりちゃんたちと一緒に解体台に乗せた。

 猪の味の決め手はなんと言っても脂身。だから、できるだけ脂身を肉に残すようにして皮を剥いでいった。

 次に、肩ロースやもも肉、ほほ肉などの部位に切り分ける。解体作業は10人がかりで3時間近くかかった。

 その頃にはすでに日も沈み、そのまま宴会になだれ込む。テーブルに並べられるのは、猟師の定番料理である味噌仕立ての猪鍋である。猪の肉や臓物と一緒に、野菜やきのこがふんだんに入れられ、本当に美味なのだ。豚トロならぬ猪トロはフライパンで焼くと、シャリシャリとした食感のある脂身からうま味が口のなかに溶け出し、絶品というほかない。

 私にとって、宴会は美味しい料理にありつけるだけでなく、猟について学べる絶好の機会でもある。

 例えば、ベテラン猟師から、

「獲物が大きく見えたときは、ぜってえ当たんねえな」

 と、教えられる。それはつまり、視線は獲物ではなく、銃の照準に向けろということみたい。

 20万人弱のハンターのうち、女性は1%に満たない。女性にとって、狩猟は縁遠い世界である。

 でも、私は狩りガールになって、生き物から命を頂くという食べる行為を大事にするようになった。

 これからも、美味しい食べ物の“始まり”を探る旅を続けていこうと考えている。

週刊新潮 2015年1月1・8日新年特大号掲載

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