東京駅が浮き上がる!? 地下駅の苦悩 東京駅「100年」人と歴史とトリビア(4)

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 開業100年を迎えた東京駅。新幹線に在来線、地下鉄と多岐にわたる路線が発着するこの巨大ターミナル駅には、知って得する秘密のトリビアがたくさんある。交通ライターの杉崎行恭氏が解説。

■地底に浮く中央停車場

 東京駅の丸の内口駅前広場は、行幸通りとあわせて広大な空間を有する。以前、そこにあったのが日本の鉄道の父と言われた初代鉄道頭・井上勝の像で、東京駅開設とともに建立され、戦時中は金属類回収令で供出されたものの、昭和34年に再建された。駅舎復元にともなって撤去され、出身地である山口県の鉄道ファンを嘆かせたが、JR東日本は「丸の内口駅前広場整備とあわせて再設置する」と説明している。

 この丸の内口駅前広場の地下には東京メトロ丸ノ内線の東京駅が、地下5階には総武快速・横須賀線の乗り場がある。その4番線ホームに立って線路を覗くと、レールに沿ってブルーのパイプが走っている。実は、これがないと地下駅が浮き上がってしまうという。

 昭和40年代、東京湾岸の地盤沈下が進んだ時に、原因となる地下水の汲み上げが規制され、そのせいで地下水位が上昇。駅に浮力がつき、上に建物などの重量物がないため本当に浮き上がりかねない危機に瀕した。その対策として地下水を、水質悪化に苦慮していた品川区の立会川まで送水するのがこのパイプなのだ。

 ちなみに上野駅の新幹線ホームでも、同じ理由で地下水を不忍池に流している。

 そんな総武快速・横須賀線ホームのさらに下にホームを持つのが京葉線で、深さは地下30メートルにも達する。この京葉線の地下空間は、昭和58年に建設中止に追い込まれた成田新幹線のために造られたスペースを転用したものだが、東京駅とはいっても八重洲南口から約400メートルも離れており、有楽町駅のほうがはるかに近い。山手線の有楽町駅の改札口で「京葉線に乗り換えたい」と申し出ると、出場扱いされずに外を歩いて京葉線に乗り継げる案内書を発行して貰えることは、意外に知られていないだろう。

 東京駅18・19番線ホームの南端に『鉄道建設記念碑』があり、そこには前述の新幹線誕生の立役者、第4代国鉄総裁の十河信二のレリーフがあるが、解説の類は一切ない。またこのホームの階段下にはひっそりと『新幹線記念碑』があるものの、やはり十河の名はない。在来線強化を後回しにしてまで新幹線事業に力を注ぎ、そのため辞任直前は国鉄内部に敵ばかりだったという十河への微妙な扱いが垣間見えて面白い。

 東京駅には来年3月14日から東北・高崎・常磐線の在来線一部列車が上野東京ラインとして乗り入れてくる。同日には金沢まで直結する北陸新幹線(現在は長野新幹線)も開業する。

 かつて東京市長の後藤新平や井上勝が夢見た東西南北に列車を発進させる帝都の「中央停車場」が、開業1世紀を経て名実ともに完成する日は近いのだ。

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杉崎行恭(すぎさき・ゆきやす)
1954年生まれ。カメラマン兼ライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に執筆。鉄道趣味の世界では駅と駅舎の専門家として知られる。
著書に『日本の駅舎』『駅旅のススメ』『日本の鉄道 車窓絶景100選』など。

「特別読物 東京駅『100年』人と歴史とトリビア」より

週刊新潮 2014年12月25日総選挙増大号掲載

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