“異次元の画力”でSNSを震撼させる「釣りキチ三平」の漫画家・矢口高雄さん…「教科書に自分の絵が載ったのは嬉しかった」のひと言に込められた“長く険しい軌跡”

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 釣り漫画の金字塔「釣りキチ三平」などの作品で知られる漫画家・矢口高雄氏の見事な絵が、ネット上でたびたび話題になっている。その圧倒的な画力に海外からも注目が集まっており、それを受けて「はじめの一歩」で知られる漫画家の森川ジョージ氏は「矢口高雄先生の画力の高さは漫画の歴史の中でも異次元」と、絶賛していた。

 私の出身は矢口氏が生まれた秋田県横手市の隣町、羽後町である。今でこそ秋田では、矢口氏を“郷土を代表する芸術家”として誇りに思っている人も多い。ところが、私が小学生だった1990年代、地元での矢口氏の評価は散々だった。「絵が下手だ」などと誹謗中傷する声も多数聞いたものである。漫画好きを称するオタクも「秋田は矢口高雄しかないから、恥ずかしい」などと口にしていた。

 ネットで矢口氏の絵が評価されるのを見るたびに、子供の頃の体験が嘘のように感じられてしまう。併せて、30年ほどの間に漫画や漫画家の地位は向上したのだなあと、感慨深くなることがある。【文=山内貴範】

漫画原画の展示施設は画期的だった

 秋田県増田町(現:横手市)に「増田まんが美術館」(現:横手市増田まんが美術館)が開館したのは95年のことである。当時、地方に漫画の原画を常設展示する施設が生まれたのは画期的なことだった。そして、画期的だったがゆえに、当初の評判は大きく分かれた。我が家を訪れた地元の政治家からも、「漫画なんかのためにそんな施設が必要なのか」と批判する声を聞いた。

 今でこそ、漫画は日本の文化だと謳われ、その原画はまるで美術品のように扱われだしている。ところが、95年当時はまだ漫画を悪書扱いする人は多かったし、ましてやその原画に美術的な価値を見出している人など超少数派だったのである。アニメのセル画に至ってはさらに評価は低く、現在では100万円を超えるスタジオジブリの背景つきセル画が、1~2万円台で入手できた時代であった。

 里中満智子氏が主導し、麻生太郎政権のもとで検討されていた「国立メディア芸術総合センター」は、2009年に政権交代した民主党とマスコミが潰したかのように言われているが、実際は、漫画家やイラストレーター、アニメーターからも「無駄な施設」と批判する声が少なくなかった。原画は中間生成物だから保存しなくてもいい、という意見もあったほどだ。

 このことからも、30年以上前に「増田まんが美術館」がいかに斬新なコンセプトで誕生したのかが、よくわかるだろう。その後、2015年に矢口氏が原画を寄贈したことを受け、19年には漫画の原画の保存と展示に特化する施設となった。「国立メディア芸術総合センター」が果たしていたであろう役割を地方の美術館が担うようになった、その功績は大きい。

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