「佐渡裕」と福岡の中高生が難曲「第九」に挑む映画「キセキの第九」…世界的指揮者が生徒たちに提示した「3つの条件」とは

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《第九》は、とても無理

 翌2019年、佐渡さんは九州ツアーの際、約束どおり、ふたたび育徳館中学・高校を訪れた。

「そのときは、チャイコフスキーの交響曲第5番を練習しました。すると練習後、生徒たちから、ぼくの指揮でコンサートを開きたいと提案されたんです。なにを演奏したいのかと聞くと、《第九》だという。とても無理だと思いました(笑)」

 このシーンで、佐渡さんは、「《第九》は、むずかしいよ」と苦笑いしている。ところが、そのあと、佐渡さんから予想外のことばがつづいた。

「《第九》はプロでもたいへんな曲なんです。それでも、どうしてもやるのであれば、3つの条件をクリアしてほしいと提示しました。(1)音楽でこの町を活性化する。《第九》なら合唱団で一般市民の方々にも参加してもらえます。次に(2)自分たちで実行委員会をつくって企画運営すること。そして(3)ティーンエイジャーが奇跡を起こせると証明すること。もちろん、ぼくはノーギャラでかまわない」

 かくして、翌2020年4月の行橋市図書館オープニング・イベントでの演奏を目標に、育徳館は《第九》に挑むことになった。ところが……思いがけないコロナ禍の影響で、演奏会は中止(正確には「延期」)となってしまう。

 このとき、育徳館の生徒と佐渡さんが、オンラインで話し合うシーンがある。佐渡さんは、いつか必ず一緒に演奏しようという旨のことばを、絞り出すように語りかける。だがイベントが中止となる以上、高校3年生は、もう参加できる機会はないだろう。胸を塞がれるようなシーンである。

「コロナ禍がおさまった2021年、合唱が加わる《第九》は無理でしたが、以前に練習したチャイコフスキーの第5番を、育徳館の体育館で指揮して演奏会を実施しました。明らかに彼らはうまくなっていました。その演奏会を終えて、《第九》を必ずやろうと、ぼくのほうからあらためて約束しました」

 そして、ふたたび実行委員会が組織された。佐渡さんのスケジュールを調整し、本番は、2024年7月、北九州ソレイユホールでのコンサートと決まった。最初の出会いから6年、《第九》をやろうと決めてから5年の歳月が流れていた。当初、参加していた生徒は卒業し、中学生だった生徒は、すでに高校生となっていた。

 本番は決まったが、ヨーロッパと日本を飛び回る佐渡さんは、そう頻繁に九州まで指導に来ることはできない。その間は、顧問の先生を中心に生徒たちで自主練習をつづけるしかない。次に佐渡さんが育徳館を訪れたのは、2023年11月だった。

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