合唱団の半分は未経験で、ドイツ語も知らないけれど…「指揮するたびに“人間は捨てたもんじゃない”と実感します」 世界のマエストロ「佐渡裕」が語る“1万人の第九”の醍醐味

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“世界のマエストロ”指揮者の佐渡裕さんは、毎年11~12月はシエナ・ウインド・オーケストラの国内ツアーや、《サントリー1万人の第九》のために帰国し、八面六臂の大活躍となる。本年は、それらに加えて、“主演”映画の公開も重なることになった。ヨーロッパ公演で多忙な日々のなか、インタビューに応じてもらった。(前後編の前編)

“世界のマエストロ”が、吹奏楽コンクール会場に

 まず11月11日からは、首席指揮者をつとめる〈シエナ・ウインド・オーケストラ〉の国内ツアーがはじまる。日本を代表するプロ吹奏楽団とともに、全国6カ所をまわる。

 今回の目玉は、演奏曲目のなかに、フィリップ・スパークの《宇宙の音楽》があることだ。イギリスの人気作曲家によるヒット曲で、吹奏楽コンクールの大人気曲である。いままでに全国大会だけで「27回」演奏されている。予選の地方大会までふくめると「476回」もの演奏回数だ(吹奏楽コンクールデータベース〈Musica Bella〉より)。先日開催された今年度の全国大会でも、中学と高校1団体ずつが演奏した。ただしたいへんな難曲で、全国大会で金賞を狙う団体の“勝負曲”といわれている。クライマックスで、壮絶なまでの盛り上がりが展開することでも有名だ。

 しかしなぜ、佐渡さんは、この曲をとりあげたのだろうか。

「数年前に、ひさしぶりに吹奏楽コンクールを聴きたいなと思って、名古屋の全国大会・高校の部へ行ったんです。そこで《宇宙の音楽》を聴いて、ぜひシエナで演奏したいと思いました」

“世界のマエストロ”が、全日本吹奏楽コンクール(全国大会)の客席にあらわれたのだから、周囲はおどろいたことだろう。

「これは、数学的で緻密に書かれた、たいへんよくできた曲です。拍子が次々に変化する複雑な曲ですが、スパークは、楽器の特徴を見事にとらえてオーケストレーションしている。木管の面白さ、サクソフォンの組み合わせ方、打楽器の使い方……吹奏楽の特色を十二分に生かしています。これをシエナでとりあげたら、きっと素晴らしい演奏になると思いました」

 それにしても、これだけ多忙で世界中を飛び回りながら、吹奏楽への情熱を忘れない佐渡さんの姿には、頭が下がる。

「ぼく自身、吹奏楽の出身ですし、若いころはコンクールにも指揮者として出場していました。京都の龍谷大学吹奏楽部といえば、いまでは全国大会常連で今年度も金賞を受賞していますが、1986年、はじめて全国大会に出場した時の指揮者は、ぼくなんですよ。それだけに、吹奏楽にはとても親しみを感じています。シエナがスポンサー撤退で存続の危機に見舞われ、“助けてほしい”と相談されたときも、すぐに引き受けました。幸いCDも大ヒットして、コンサートにも、多くのお客様が来てくださるようになりました」

 日本の吹奏楽は、中学高校の“部活動”を背景に発展してきた。よって、クラシック・コンサートのように、純粋に吹奏楽を聴きに演奏会場へ行く聴衆は、少ないといわれてきた。

「日本全国の学校の8割に吹奏楽部があって、ものすごい人数がかかわっている。バーで音楽の話をすると、吹奏楽部にいたというひとがよくいる。なのに、彼らは卒業してしまうと、吹奏楽コンサートには行かない。これは、もったいないことだと思うんです。楽器をやめたあとも、ぜひ吹奏楽に親しんでほしい。そして、新聞の文化欄や演奏会評で、オーケストラの定期演奏会とおなじように吹奏楽コンサートが取り上げられてほしい――そんな思いでシエナと吹奏楽をつづけています」

 シエナのコンサートでは、毎回、最後に《星条旗よ永遠なれ》の合同演奏がある。楽器を持ってきたひとは誰でも舞台に上がって参加できるのだ。最初は、たった2人の高校生(トランペット)しか上がってこなかったが、いまでは舞台からあふれんばかりの参加者で大盛況である。

 今回のツアーでは、幅広い活動で知られるトランペット奏者、松井秀太郎との共演のほか、これもコンクールの人気曲、レスピーギの《ローマの噴水》《ローマの松》も演奏される(ツアーの詳細は、佐渡裕オフィシャルファンサイトで確認を)。

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