中日ファンの期待を一身に背負う「工藤新監督」、“日本一5度”の実績だけではない来季のドラゴンズにとっての“大きな武器”とは
迷走した新監督人事は?
私が見てきたドラゴンズの監督交代劇の中で、最も後手後手に回ってしまったと感じたのは、立浪和義氏(57)の就任時でした。
立浪新監督の就任が発表されたのは2021年10月29日。この年のドラフト会議は10月11日に行われ、就任はドラフト会議が終わった後でした。立浪さん本人から聞いた言葉ですが「ドラフトの前には、まだ監督就任の打診はなかった。もし自分がドラフトに参加していたら、他の選択肢があった」というのです。
評論家として外から球団を見てきた立浪さんには、ドラゴンズを強くするために必要なポイントがいくつも見えていたはずです。ドラフト会議は、自身が考えるチーム作りに足りないポイントを補強するための重要なチャンスです。ところが立浪さんは、このチャンスを奪われたということになります。
つまり、立浪さんが考えるポイントとは別のポジションを補強する指名が行われたのです。
チーム作りにおいて重要な位置を占めるドラフト会議。それを新監督が決まる前に迎えざるを得ず、しかも現場を預かる監督不在のまま指名が行われたということは、この時の新監督人事がいかに難航していたかを物語っています。
今年のドラフト会議に工藤新監督は参加しませんでした。ただ、不参加だった理由は、立浪さんの時とは全く事情が異なり、監督就任前から決まっていた仕事があるためでした。また、会議に向けて1年間努力を続けたスカウトを尊重し、指名について「要望はないです」と断言。預かった選手をどう成長させ、戦力としていくかが自分の仕事だとの見解を示しました。球団公式YouTubeには仕事を終え、ドラフト会議の会場であるホテルに工藤監督が駆け付けた映像も確認できます。要望を出そうと思えば出せる状況であっても、スカウトを「その道のプロ」として尊重した姿勢は、工藤新監督のポリシーを感じます。
立浪さんのことが頭にある私は、最初「不参加」と聞いたとき「まさか」と思いましたが、杞憂に終わりホッとしています。
工藤新監督が会見で強調したのが「対話の重要性」でした。
ホークスでの監督時代、自分の思いと相手の考えを互いに理解することに腐心してきた経験が語られました。就任会見を終えた工藤新監督は、すぐさまチームが練習を行っているナゴヤ球場に足を運び、選手を集めて語りかけただけでなく、大島洋平(40)など、ベテランと1対1で面談を行いました。
選手だけでなく、フロントとも密接な意見交換を行っているとのことですから、今回のドラフト会議での指名は、工藤新監督の意向も反映されたものと思います。
11月の秋季キャンプからいよいよ工藤新監督体制が始動します。就任会見で「選手にとって重要でない時期はない。特に秋は来季ケガをしない体作りに重要だ」と語った工藤新監督の下での秋季キャンプがどのようなものになるか、今から楽しみです。
監督経験者の重み
ドラゴンズで、「監督経験者が新監督になる」のは高木守道氏以来となります。星野仙一氏の第1次政権のあと、高木さんが監督に就任しましたが、今年の井上一樹監督(55)まで星野さん、高木さんを除き、全員が初の監督就任でした。
様々な解説者と中継でご一緒した経験から断言できるのは「監督経験者は野球の見方が違う」ということです。現役時代、投手か野手かで、解説者になってからの得意分野は分かれますが、監督になるとチーム全体を俯瞰して見るようになります。
投手出身の解説者はピッチャー目線、野手出身の解説者はバッター目線での解説になることがほとんどです。しかし監督を経験された解説者はまさに「監督目線」。ピッチャー、バッター双方の目線で、さらに作戦面、継投のタイミングなど、試合を細部に至るまで解説してくれます。
工藤新監督は監督経験者であることはもちろん、ホークス時代に5度の日本一と、実績も申し分ない指導者です。同じ「新監督」でも経験者と初めての人とでは経験値という点で、経験者の方が一歩も二歩も先を行くことができると思います。
否が応でも盛り上がるドラゴンズファンですが、きっとその期待に応えてくれると思います。
最後に、工藤さんが新監督に就任したメリットをもう一つ挙げます。
それは来シーズンからセ・リーグでも導入されるDH制です。以前も書いたように、DH制は単純に「ピッチャーが打席に立たず、バッティング専門の選手がオーダーに入る」ものではない難しさがあると、交流戦が始まって以降、毎年のように聞かされてきました。
工藤さんはDH制のもとで采配をふるった監督です。
セ・リーグの中で、いち早くDH制を生かした野球ができると考えます。これはドラゴンズにとって大きな武器になるのではないでしょうか。
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