ロシア拘束「北海道新聞記者」の名前をなぜ報じない 解放めど立たず…専門家は「実名報道の必要性」指摘
北海道新聞の男性記者がロシア当局に拘束されたのは、かつて彼の祖父が暮らしたサハリン(旧樺太)だった。解放のめどもまったく立たぬ中、専門家からは国内メディアの消極的な報道姿勢に疑問が呈されている。
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カメラは全身黒ずくめで目出し帽を被った複数の男たちが、ホテルの部屋に突入する場面を捉えていた。次の瞬間、彼らは無抵抗の男性を床に押し付けて、後ろ手に手錠をかけた……。
その男性は、北海道新聞ユジノサハリンスク支局の今井裕紀記者。10月13日、ロシア連邦保安庁(FSB)にスパイ容疑で拘束された際の映像は、ロシア国内で広く拡散された。
国際部デスクが言う。
「北海道新聞は日本のメディアで唯一、サハリンに支局を置いています。今井氏はそこの駐在員でした。FSBは今井氏がウクライナ侵攻に動員された兵士について情報を収集していたスパイであると主張していますが、日本側は今井氏がスパイであるとの見方を明確に否定しています。彼は大手紙の政治部記者の妻と幼い娘を日本に残しており、拘束されたのは駐在期間を終えて帰国の途に就く直前だったといいます」
祖父の因縁の地
実は今井氏が拘束されたサハリンは、彼の亡くなった祖父にまつわる因縁の地だった。
今井氏自身、道新の紙面(2017年5月31日付)でこうつづっている。
〈祖父は戦前、樺太のホルムスク(真岡)で生まれ、旧ソ連軍が戦争末期に樺太に侵攻してからもしばらく住んでいた。(中略)民間人が犠牲になった当地での地上戦については「必死に逃げた」と話すのみ〉
祖父が辛酸を嘗(な)めた土地で、今度は自身がロシア当局によって捕らわれの身になるとは思いもよらなかったのではあるまいか。
今回の拘束事件に関して抗議声明を発した北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター特任教授の岩下明裕氏が語る。
「ユジノサハリンスクは人口20万人ほどの小さな町ですが、戦争に動員されている人の割合がとても高い。そういう場所で取材をすると犠牲者の家族は当然、戦争の実情を話したくなります。ロシア政府は戦争の被害状況を掘り起こされるのが嫌だったのでしょう。現在の日ロ関係は最悪で当局の行動にも歯止めがかからず、見せしめにされた格好です」
「実像を正しく伝えるためにも」
そして目下、懸念されているのが拘束の長期化だ。
「3年前に米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者がスパイ容疑で拘束された際には懲役16年の判決が下った。WSJの記者の場合、ロシア側が米側との身柄交換に応じて釈放されましたが、日本には交換できる身柄もなく、解放に向けての見通しは立ちません」(岩下氏)
だからこそ、国内外の世論の力が重要なのだが、海外メディアと異なり、道新はじめ国内メディアは今井氏の名前を報じていない。
早稲田大学教授でジャーナリズム論が専門の澤康臣氏が指摘する。
「日本は基本的に民主主義の国です。世論のバックアップがあってこそ、この問題に対する政府の優先度も上がります。彼の実像を正しく伝えるためにも、実名報道は必要です」
今井氏の両親は北海道に暮らし、母親は長年にわたり息子が働く道新の配達員を務めてきたというが、
「事件発生以降、配達所には姿を見せていません」(配達所関係者)
母親は自宅にこもり、憔悴(しょうすい)し切った様子でとても話ができる状態ではないという。
日本に残された家族のためにも、一日も早い解放を願うばかりだ。


