「完全寛解84%」という驚異的なデータも 「がん光免疫療法」の最先端をレポート
最難関のがん
頭頸部がんの次に、光免疫療法が照準を合わせているのが、「食道がん」や「胃がん」、さらには「子宮頸がん」などの婦人科領域や「膵がん」である。
北海道大学では、放射線治療後に局所再発した「子宮頸がん」「外陰がん」「腟がん」を対象に、医師主導の治験が進行中だ。
実は子宮頸がんなどにも「EGFR」抗原が多く発現しており、頭頸部がんに使用するのと同じ薬が使える。
現在は全国31施設が協力し、事前に種々の検査を行い、免疫チェックポイント阻害薬の治療歴があるかなど、条件を満たした患者を北大で受け入れている。
「対象患者の約9割でEGFRの高発現が確認できており、HPV(ヒトパピローマウイルス)と関連が強い子宮頸がんなどと光免疫療法との相性の良さが期待されます」と同大の朝野拓史助教は指摘する。
一方で、「頭頸部ではEGFRの発現の高さと治療効果が必ずしもきれいに比例しないデータもあり、ウイルスによって光感受性が異なる可能性もある」と冷静に見ている。
また同大の産婦人科学教室を率いる渡利英道教授は言う。
「光免疫療法は婦人科系の医師の間でもまだ完全には認知されていない部分もありますが、患者さんにとっては非常に恩恵の大きい治療だと思っています。北大の小児科では小児がんの領域で違うターゲットを使った基礎実験もやっていますし、別のがん種に広まることも期待しています」
渡利教授が「別のがん種」として名前を挙げる一つが、いまも“最難関のがん”とされる膵がんだ。
膵がんは、早期発見の難しさ、解剖学的な位置による手術の難しさ、抗がん剤の効きにくさという“三重苦”から、治療成績の改善がなかなか進んでこなかった。
これに対し、頭頸部がんと同じ「EGFR」を高く発現するタイプの膵がんを標的にした光免疫療法について、アメリカで臨床試験を始める計画が進んでいる。
膵臓は体の奥深くにあるため、まだ検討段階ではあるが、超音波内視鏡から体の中へ細い光ファイバーを入れ、膵臓の奥にある腫瘍へ光を届ける手技も案として挙がっている。
婦人科がんと膵がん。
いずれも進行すれば、治療が難しくなるがんだ。
「最後の切り札」をいつ出すのか
今後、光免疫療法が有効な治療法としてどこまで食い込めるかは、頭頸部に続く部位の治療を確立できるかどうかが試金石になる。
約10年間、光免疫療法を取材してきた筆者としては、この4~5年がある意味で勝負だと感じている。
光免疫療法の製薬と照射デバイスの製造などを担う楽天メディカルは、再発・難治の頭頸部がんに対して、2028年の米食品医薬品局(FDA)承認申請を目標に掲げている。
日本で世界に先駆けて条件付き早期承認を得たこの治療が、アメリカでも“本承認”を勝ち取れるかどうか。その結果次第で、日本の厚労省のスタンスももっとスピード感を伴ったものになるはずだ。
医師出身の国会議員・阿部けいし氏もこう語る。
「スペースXのマスク氏が『SFからフィクションを取り除く』と言ったように、がん克服もSFのようでいて、現実にせねばならない。がんは“誰か”の病気ではなく、『あなた自身』の問題。光免疫療法をはじめとする治療を、必要としている患者さんに確実に届ける制度を作るのがわれわれ政治家の役割だと思っています」
野球で例えるなら、9回裏の「最後の切り札」だった光免疫療法を7回あたりから出せるリリーフにするのか。あるいは、いずれ先発投手に格上げするのか。
そのシナリオが現実味を帯びるかどうかは、2020年代後半、まさにこれからの数年に懸かっている。
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