「完全寛解84%」という驚異的なデータも 「がん光免疫療法」の最先端をレポート
標的だけを狙い撃ち
現在の光免疫療法が“目印”としているのは、頭頸部がんなど特定のがん細胞表面に多く出ている「EGFR」というタンパク質だ。
それを標的抗原とし、その抗原にぴったりと合う抗体薬と近赤外光に反応する色素を合成して、患者の体内に点滴静注する。薬は血液に乗ってゆっくりと全身を回りながら、EGFRを持つがん細胞に集まる。
翌日、そのがんのある場所にだけ、特定の波長の近赤外線レーザーを照射する。光が当たると、がん細胞表面にくっついた色素が反応し、瞬時に分子構造が変化。その際、がん細胞の表面に傷がつき、ものの数秒でがん細胞は破裂する。
「がんの周りの正常な組織はできるだけ残しつつ、標的だけを狙い撃ちにするイメージです」(小林医師)
この、がん細胞だけを狙撃して、正常細胞は傷つけないという“体に優しいアプローチ”が光免疫療法のオリジナルでユニークな点だ。
「EGFR」に限らず、他の抗原に対しても抗体薬を変えることで対応できるため、将来的には固形がんの約9割を治せるといわれている。
もっと言えば、がん細胞に限らず、老化細胞やバクテリアなどを標的にすることも可能であり、がん治療以外でも発展する可能性を秘めている。
従来も光を使うがん治療法はあった。例えば名前のよく似ている光線力学療法(PDT)とは何が違うのか。免疫に詳しい京都府立医科大学の辻川敬裕准教授に聞いた。
「PDTは早期のがんにはある程度有効なのですが、がん細胞と正常細胞を選り分ける性質がそれほど強くない。一方、光免疫療法は、細胞の選択性が高く、“がんの目印をめがけて薬を届けられる”点が大きな違いです」
免疫のスイッチ
また、もう一つの大きな特徴は、「免疫のスイッチを入れやすい」ことだという。壊れたがん細胞の中身が周囲にばらまかれることで、免疫に「これは敵だ」と教える材料になる。
「体中にがんの手配写真をばらまくようなものです」(辻川准教授)
もともと自身の正常細胞が変化したがん細胞は、周囲の正常細胞と見分けがつきにくい。さらにがん細胞は、制御性T細胞など免疫機能にブレーキをかける細胞を隠れみのにして、免疫細胞の攻撃から逃れることが知られている。
だが、光免疫療法は、がん細胞を直接破壊するだけでなく、残ったがんの身元情報をオープンにすることで、活性化した免疫細胞ががんに追い討ちをかける仕組みだ。
この「患者の免疫を強化する」という点に注目して、既存の免疫チェックポイント阻害薬と光免疫療法を併用する治験(臨床試験)も行われている。
「実臨床でも、光免疫療法と免疫チェックポイント阻害薬の投与を一緒に行った患者さんのほうが予後が良い傾向があるように思う」と複数の医師が口にするが、正確なエビデンスが出るまで待ちたい。
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