“ボール直撃”の事故から野球選手を守るには…“軟式球”の導入、投手の“スピード違反”を取り締まるといった提案を“笑い話”で終わらせてはならない

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投手の「スピード違反」

 だが、深刻な事故が頻発する事態を放置すれば、野球そのものができなくなる恐れだってありえるだろう。

 暑さ指数が一定の数値に達したら屋外スポーツは避けるという了解が日本でも常識になりつつある。だが、“夏の甲子園”という一大イベントを守りたい野球界はこれに目を背けてきた。これももう避けられないし、野球界がそのような野蛮な慣行を貫くなら、野球を志す子どもや応援する親たちも激減するだろう。現にその傾向は明らかだ。

 私は、劇的な用具やルールの変更を、覚悟を決めて検討すべきだと提案する。今こそ、《野球を安全にする国民会議》を始めるべきではなかろうか。

 例えば、試合でもマウンドの前にネットを立てる。もしくは、プロ野球や高校野球でも、硬式に近い性能に改良された最新の軟式球(M号)の採用を真剣に検討すべきだと私は本気で提案する。国際的にも、より安全性の高い軟式球をオリンピックの使用球にすれば、スタジアムを持たないアジア・アフリカの国々でも普及が容易になるだろう。

 自動車は便利だが危険と背中合わせだ。これは誰もが知っている。交通事故を根絶するため、自動車メーカーはエアバッグを義務付け、自動安全制御装置の開発などにも懸命に取り組んでいる。法的にはスピード制限など様々な規制が講じられている。

 これを野球に置き換えて考えてみてはどうだろう? 近年の野球事故の要因のひとつは、投手の投げるボールの高速化だ。打球速度も同様だ。ならば、投手のスピード違反を取り締まる発想はどうだろう? 「そんなバカな」と笑われそうだが、「投手が速い球を投げない」のは有効な安全対策の一つだ。元々野球は、打者が「ここに投げてね」と投手に要求して始まるゲームだったと聞かされている。投手が剛球を投じて打者を抑えにかかろうとし始めたころから、野球のおおらかさが失われたのかもしれない。

野球の楽しみの本質は「打つこと」

 私も投手出身だから、投手の球速を否定するのは抵抗があって長い間逡巡した。が、やはり国民の娯楽としての野球復活、さらなる繁栄を夢想すると、これは決定的に有効な策ではないかとの考えに至った。

 アメリカで草野球がわりに人気を博すソフトボールは、この私の考えを体現している。スローピッチと呼ばれ、投手は山なりの球しか投げてはいけないのである。かつて野球は三振を取る競技ではなかった。打って始まるゲームなのだ。これを守備側がどう守るか、そこに面白みがある。

 以前、日米のプロ野球で審判を務めた平林岳氏の講演で聞いた興味深い話がある。

「なぜ、ビジターが先攻なのか?」

 平林さんは聴衆に問いかけた。そこにいた全員が野球の指導者と現役の中学生選手たち。おそらく大半の人が、「後攻の方が有利だから、ホームチームが後攻で、ビジターを先攻にするのだろう」と答えを想像したのではないだろうか。ところが、答えは違った。

「野球って、打つのが楽しいゲームでしょ。だから遠くから来てくれたビジターチームに、『どうぞお先に打ってください』と、それでビジターが先攻なんです」

 それを聞いて、「そうか、野球は打つことが楽しいゲームなんだ、抑えることは野球の元来の楽しみを削ぐ間違った姿勢なのだ」と、えらく感銘を受けた記憶がある。

 だから、投手が速い球を投げない、という基本姿勢は決して暴論ではない。

スポーツライター・小林信也

デイリー新潮編集部

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