戦火が燃え広がる時代に、鬼才・塚本晋也監督が世界に問う話題作「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 “加害者”の目線で描かれた戦争の衝撃

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映画完成までの紆余曲折

 映画では、帰還後、ニール・ダニエルズ医師(ジェフリー・ラッシュ)と出会い、苦しみながらカウンセリングを受けるアレン・ネルソンさんの姿を軸に展開する。その過程で、ベトナムで具体的になにをしたのかが、回想で描かれていく。塚本晋也作品としては、回想形式はたいへん珍しい。だがその描写は、塚本監督が撮ってきた近年の作品「野火」(2015)、「斬、」(2018)、「ほかげ」(2023)のなかでも、突出したリアルさとスケールの大きさである。特に、米海兵隊が、ベトコンをあぶりだすために無関係な村人や女性・子どもを容赦なく惨殺するシーンは、正視するのがつらいほどだ(原作本は、このベトナムでの回想に半分ほどが費やされている)。

 言語はほとんどが英語で、日本語字幕がつく。出演者も、アレンさんの講演活動をサポートする黒井(リリー・フランキー)を除くと、日本人は一人もいない。撮影も、タイ、ニューヨーク、日本、ベトナムの4カ国でおこなわれた。よって、通常の日本映画を観ているような感覚はすくない。このような大作が、いつから、どのようにして実現に至ったのだろうか。

 プレス資料のインタビューで、塚本晋也監督自身、こう語っている。

「本作は『野火』を撮るにあたり、さまざまな戦争資料を読み込んだことがきっかけです。戦争に行く人の多くが若者であり、そんな未来ある人々が戦場ではとてつもなく怖ろしい目にあう。多くのノンフィクションではそれを被害者の目線で描いていますが、この原作では、加害者の目線で描かれていた。戦場での加害を、包み隠さず、正直に全部書いている内容に、大きな衝撃を受けました」

 しかし、容易にゴーサインは出なかった。具体的にプロットを書きはじめたのは、2018年1月だったという。だが出資会社がなかなか決まらない。ようやく2020年2月、木下グループの製作参加が決まったが、海外の出資会社が決まらなかった。最終的に2022年1月、木下グループの単独製作が決定。その間、「ほかげ」の撮影を先に進め、「ネルソンさん」が本格的にスタートしたのは、2023年になってからだった。結局、7年間をかけた、まさに塚本監督、執念の作品となった。

 実は、アレンさんの後半生は、日本での講演活動がたいへん多かった。墓所も、石川県加賀市山田町のお寺、浄土真宗「光闡坊」(こうせんぼう)にある。よって、平和運動に関心のある方には、アラン・ネルソンさんの名前は周知のはずだ。

 アレンさんと日本のかかわり――そのきっかけは、1995年9月に起きた、沖縄米兵少女暴行事件だった。3人の米兵が12歳の女子小学生を拉致し、集団で強姦致傷し、逮捕された事件である。アレンさんは、そのニュースをテレビで知った。

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