「ダレてやるなよ、絶対に。誰が見てるかわかんないんだから」 御年89歳のコメディアンにして名優が、現場でも私生活でも“手を抜かない”理由
伊東・小松コンビの秘密
小松はどうやってそんなギャグを伊東と考えたのか、それも説明してくれた。
〈ギャグはどうやって作っていたかというと、私が見聞きしてきたことを話すんです。飲み屋でホステスらしき女性が、奥にいるリーゼントの二枚目に「ねぇ、どうしてなの、私の悪いところがあったらなんでも直す。ねぇ、どうして、どうして、おせーて」と1分間で「どうして」を50回くらい繰り返している。その場面を伊東さんに話したんです。
その日、本番が遅れていて、スタッフがそれを伝えにきた。すると伊東さんが「どうして、どうして、おせーて」と言って、「ウン、これ使えるね」だって〉
そんなコメディアン時代に培った剽軽で屈託ないキャラが人を引き寄せ、伊東は昭和、平成の名だたる名優らとドラマで共演するようになる。しかし、タレントとしての格が上がっても、伊東はつねに自然体でおごるところがなかったし、手抜きしたこともなかった。
例えば、面識がない映画監督の市川崑に褒められたエピソード。
1967年の正月、朝日新聞の「今年の注目すべき人」という欄に「動きとセリフのタイミングが実に抜群だ」と市川監督が語った記事が載った。たったそれだけなのに、とてもうれしかったという。市川監督が見た伊東は、ドラマに出演する前のコントをやっていた時代。そんな昔のことで褒められたことを大きな教訓にしている。
〈私はよく後輩に言うんです。ダレてやるなよ、絶対に。誰が見てるかわからないんだから。つまらないコントだと思っても一生懸命捨てないで演ってないとダメなんだからって…わたしが演ってることを、全然違う角度から見てる人が必ずいるってことです〉(前掲書から)
この伊東の教えを肝に銘じているのが、伊東が主役の刑事ドラマなどで共演することが多い俳優の飯田基祐(60)。「死ぬまでにやりたいこれだけのこと」というインタビューから。
〈伊東四朗さんからは仕事に対する考え方や向き合い方など学ぶことが多かったですね。とくに忘れられない言葉は「どこで誰が見ているかわからないから手を抜くな」です。努力している姿もサボっている姿もどこかで誰かが必ず見ているから手を抜くなと。現場でも私生活でもちゃんとしなさいと言われました〉
どんな相手にも気を遣う
伊東と相性がよいだけでなく、気が合うのは、ラジオ・パーソナリティの吉田照美(75)。文化放送の「伊東四朗 吉田照美 親父・熱愛」は来年で丸30年を迎える長寿番組になっている。
苦労人だけに、伊東は気遣いの人でもある。吉田が伊東に教わったのは酒。吉田は元々、飲めなかったそうだ。しかし、酒席がことのほか多い業界だけに、酒の付き合いについて悩んでいた。そんな中で伊東とラジオをやるようになったのだが、伊東は最初、遠慮がちだった。そのうち一緒に飲む機会があり、伊東がポツリとこう言った。
「酒を飲まない人っていうのは、本音を言わない感じだから、なんか面白くないなぁ」
そう言われ慌てて飲んだところ、喜んでくれて、それ以降は番組中に、吉田のことを「うわばみ! うわばみ!」「本当に酒好きなんだから」と番組でイジってくれたという。
強要したかもしれないという引け目を感じながらも、打ち解けるためには酒の付き合いは大切とそれとなく教え、嫌な思いもさせない。そんなことができる大ベテランはそういるものではない。
自らを律し、どんな相手にも気遣って接する。それが息長く、第一線で活躍する伊東から学ぶことではないか。




