温かみの小池栄子、ノンデリの北香那がナイスコンビ 「さよならノワール」の完璧なキャスティング

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 いろいろあって、フジテレビの警察モノという時点で厳しい目で見られているが、「さよならノワール」は秀作。犯罪の加害者保護は進んでも被害者支援は遅れているそう。警察官と心理士がバディを組んで被害者の痛みに向き合う。事件解決ではなく、被害者の安寧と平穏を取り戻すことが目的だ。基本的に寄り添って何もしない。優しい言葉と傾聴が正解とも限らない。被害者の心を支える難しさ、優しさや正しさだけでは救えない現実をかみしめる。

 被害者や被害者家族の心模様は実に複雑だ。絶望や悲しみのあまりショック状態になったり、感情的に過剰反応することもある。被害に遭ったことを認めなかったり、自責の念にとらわれたり、絶望のあまり命を絶とうとしたり。また、被害者なのに世間から誹謗中傷や心無い言葉を浴びせられたり、加害者への復讐心を募らせるケースも。支援とひと口に言っても、ものすごく難しい仕事だ。日々これ難局という職場が舞台なのだが、小池栄子と北香那のコンビがむちゃくちゃいいんだよ。

 小池が演じる黒木はマル暴の刑事だったが、尊敬していた上司の山崎(渡部篤郎)の失踪を機に、家庭が壊れ、被害者支援の部署へ異動した背景がある。冷静だが思慮深く、温かみのある対応。これまで小池の眼力は圧やすごみを出したり、笑わせてくれたが、今作では人格者としての穏やかさをたたえている。基本は「待って耳を傾ける」が、必要に応じて時には規則を破ったり、真実を伝えて、相手の心情に寄り添う。被害に遭ったらそばにいてほしいと思わせる頼もしさがある。

 一方、香那が演じる白石は心理士のくせに、いちいちやらかすわけよ。「特技は神経逆なで」と言ってもおかしくない言動で、被害者や周囲の人をあきれさせる。大学から警察署に派遣されてきた優秀な心理学者なのだが、悪気はないし、人を救いたいホスピタリティーはあるのに、「今それ言うか?」の連発。知識豊富で頭の回転も速いゆえに、余計なひと言でいら立たせるのだ。自信過剰で自己防衛的、そんでもってちょっと勝ち気。こういう女を演じさせたら香那、無双。最高なのよ、仕草が。相手の顔を見ずに目を泳がせながら、脳内言語を一気に吐き出す癖とかね。白石が無神経過ぎるという声もあるが、だからこその成長が見られるし、黒木が逆に白石に救われて信用していく過程も楽しみ。真逆で凸凹、上下関係がなく、いいバディなのだ。

 二人を見守るのが、朗らかで包容力のある被害者支援室長の田村(適役な戸田恵子)。白石を派遣した大学の教授で精神科医の五十畑(いそはた/岡部たかし)は、なにやら過去がありそうだ。刑事たちも良き布陣。黒木に信頼をおく河口(眞島秀和)やチャラい大野(濱尾ノリタカ)は善玉かな。刑事課長(荒川良々)や黒木を敵視する強行犯係長の中谷(味方良介)、黒木の動向を探るために白石に近づく鴨居(岡山天音)はやや曲者のニオイがする。

 そうそう、主題歌も作品にしっくり。chilldspotの歌声も好みで、感情移入をそそられまくっております。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2026年9月3日号掲載

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