「肉体の関係」はなくても「揺れる心」…「Tシャツが乾くまで」が突きつける「不倫とは何か」

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傑作ドラマとの共通点

 咲子はネグレクトと失踪癖の話はひとまず受け入れたが、あずさの件はそうはいかなかった。

「(あずささんは)嫌われてもいい人ね。私は嫌われたくない人。一番お気に入りの服なのに、全然着ていないみたい」

 自分はよそ行きの服で、あずさは普段着だったと言われたようなものだから、咲子の気持ちが収まらないのも無理はない。咲子はこうも言った。

「思いっきりミートソース飛ばしながら『おいしいね』と言ったほうが、家族って感じがする」

 自分にも、嫌われてもいいようなことを言ってほしかったのだ。なんでも話してくれることを望んでいたのである。2人は結婚から10年。結婚時に決めたルールを見直す時期が来ていた。

 このドラマがヒットした理由はいくつも考えられる。まず、企画が新鮮である。この作品はジャンル分けするとホームドラマだが、それをサスペンス仕立てで見せている。

 ただし、サスペンス仕立てのホームドラマが過去になかったわけではない。昭和のドラマの最高傑作と言われる、TBS「岸辺のアルバム」(1977年)がそうである。山田太一さんが脚本を書いた。

 主人公の則子(八千草薫さん)は専業主婦。夫と2人の子供と幸せに暮らしていると見られていたが、家族に言えない秘密があった。変化のない日常から逃れたくなり、不倫していた。

 夫も2人の子供もそれぞれ秘密を抱えており、それが次々と明らかになっていく。一家の幸福は幻影に過ぎなかった。

 ホームドラマは物語が平板になりがちだが、「岸辺のアルバム」も「Tシャツが乾くまで」もサスペンス調にすることでそれを避けた。

 しかも、この作品は構成が計算し尽くされている。特に毎回のラストは圧巻。毎回、あざといほど衝撃的な場面で終わる。それでいて、物語の進行を不自然にしていない。

 第1回は園田が咲子に対し、「あなたの夫、僕の妻と不倫してましたよ」と告げて終わった。第2回は咲子と園田が体を寄せ合った。

 第3回は失踪中だった充が咲子に電話で「ごめんね」と告げた。第4回は咲子が充の足取りを辿って長野へ向かう。第5回は園田の来訪中に充が帰宅した。

 第6回は充が咲子と園田に対し、2人は不倫でないのかと問うた。第7回は回想シーンで、充が両親に会うために長野行きのバスに乗ろうとしたところ、あずさが乗り場に現れた。

 充は園田の胸の内を慮ってか、あずさを長野に誘ったのは自分だと言ったが、本当はあずさの意思だったのだ。

「ついて行きたいかもしれません」(あずさ)

 あずさの「かもしれない」は、「そうしたい」という意思表示だった。パート先の古書店主・宮内幸次(リリー・フランキー)が第5回でそう語っていた。

 あずさが育った養護施設の職員・平岡光江(宮地雅子)は、第5回で彼女の結婚に驚いていた。あずさには、どんな過去があったのか。

 咲子の過去も、まだ明らかになっていない。充とは対照的に、過干渉な母親・中林順子(島本須美)に育てられた。そこにも、何か秘密があるのではないか。また、咲子は充に振り回される被害者的存在に過ぎないのだろうか。そうとは思えない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社。放送担当記者・専門委員として、1994年のNHK連続テレビ小説「春よ、来い」のヒロイン途中交代や、1999年のフジテレビ「愛する二人別れる二人」のやらせ問題などを特報する。2015年に毎日新聞出版へ入社し、サンデー毎日編集次長を務める。編集者としては「小池百合子都知事の真実」などを担当した。2019年に独立。元・放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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