中学入試は“0時間目の授業”……「渋幕の理科」から見えてくる「難関校」が求める生徒の条件とは
中学受験の勉強は、小学校の授業で習う内容よりもはるかに難しい。そのため、少しでも有利に働くようにと、幼いときから塾通いさせている家庭も多い。しかし、知識量の多さと処理能力の高さで勝負できたのは、かつての話。近年、中学入試の中身が大きく変わってきている。それでは、どのように対策していけばよいのだろうか。45年以上にわたり、難関中学・高校受験指導に携わる「名門指導会」創設者の西村則康氏に聞いた。(取材・構成:石渡真由美/ライター)
〈2026年8月8日に「新潮QUE」で配信した記事をもとに再構成しました〉
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入試問題は「0時間目の授業」
中学受験の指導にあたり、かれこれ45年以上が過ぎました。毎年、受験シーズンが終わると、即座に行うのが各学校の入試分析です。これがとても楽しい。なかでも注目しているのが、渋谷教育学園幕張中学校の理科の問題です。入試問題には学力を測る目的がありますが、難関校においては、「0時間目の授業」という役割が大きいと感じています。2026年度に出題された同校の大問2の問題がまさにそうでした。
子ども達にも馴染みのあるラムネ菓子には、クエン酸と重曹(炭酸水素ナトリウム)が含まれています。この2つを題材に、発生する二酸化炭素の重さ・温度変化を読み取る問題が2026年度の入試では出題されました。子ども達は「重曹を熱すると二酸化炭素が発生する」という知識は塾で学習しますが、反応によって温度が下がるという吸熱反応までは習わない。つまり、小学生の子どもにとっては初めて見る問題が入試本番で出題されたわけです。
そんな問題、小学生の子どもが解けるわけがない、と思うかもしれません。しかし、これは意地悪問題ではありません。問題文を始めから終わりまできちんと読み、与えられたデータの意味を理解できれば、これまで培ってきた知識や経験をもとに答えが出せるようになっています。
実際、問題文には、重曹は水に溶けにくい性質のため、クエン酸を先に溶かしてから水溶液にするといった実験の順序と理由、重曹とクエン酸が反応する際には吸熱反応が起こるため、水溶液の温度が下がるといった情報をグラフで提示しています。
では、なぜそのような問題を出すのでしょうか。それは、学校が生徒の「素直さ」を見ているのではないか、と私は考えます。
昨今、首都圏では中学受験熱が高まり、幼少期から塾や学習系の習い事をはしごさせている家庭が増えています。こうした学習塾では常に成績が重視され、塾の学習も「これはテストに出るから覚えていくように」と、知識の暗記やパターン学習を導いてしまうことが多い。しかし、理系の力を伸ばすには、「なぜそうなるのか?」「だったら、どうなるのか?」といった思考を巡らせる時間が欠かせません。それを省いて、ただ知識を詰め込んでも、理系の力は育っていきません。
学校側はそれを知っているからこそ、新たな知識に出会ったとき、「重曹とクエン酸が反応すると、温度が下がるんだな。面白いなあ」と反応してくれる素直な好奇心を持つ子を求めているのです。そういう子に自分たちの学校に来てほしい。そして、そんな子を教えていきたい。そんな学校側の思いが、この問題に込められているように感じました。これこそが、私が入試問題は「0時間目の授業」だと考える理由です。
難関校が欲しがる子どもとは
難関校にはこのような初見知識を問題文に入れてくるケースが多いのです。新たな知識を伝えるためには、問題文は必然的に長くなります。こうした長文を目の前にしたとき、「こんなに長い文を読めないよ……」「知らない言葉が出てきた。どうしよう……」と怯んでしまう子は、振るい落とされてしまうでしょう。ピンチに立たされたときでも、「まずは、問題文をしっかり読んでみよう。きっと何かヒントが見つかるはずだ」と柔軟に対処できる力が難関校の入試では求められているのです。
問題文の長文化は中堅校にも広がっています。ただ、難関校と違って、初見の知識は出てきません。中堅校ではこれまで学習してきた内容をより詳しく説明し、そこに少し発展的な要素を加えている問題が多いのです。例えば、電圧と電流は比例すると塾では習いますが、豆電球は熱を持つと抵抗が大きくなるため、実際には電流は電圧に比例しません。こうした現実に近いグラフを提示して、子ども達にその場で考えさせるような問題が出ています。つまり、ここでも大事になってくるのは、与えられた条件を「へぇそうなんだ」と受け止められる素直さなのです。
こうした入試傾向は、算数にも見られます。算数の入試問題というと、複雑な計算や難しい応用問題が出る、と思っている親御さんは多いものです。しかし、処理能力の高さは、いまやAIを超えることはできません。今、世の中で求められるのは、計算を速く解くことでも、周りが解けないような難問に正解することでもない。「なぜそうなるのか」根拠を理解し、それを応用して新しいものを生み出していく力、すなわち創造性が重視されています。昨今の算数入試にはこうした意図を強く感じます。
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それでは、どうすればこれらの難関校に合格する力が付くのか。「新潮QUE」にて公開中の関連記事【「渋幕の理科」から見えてくる難関校が求める生徒の条件――パターンで解法を覚えさせるのは正しいか】【「開成の算数」入試に見る“手作業”の重要性――「学年別」算数・理科を伸ばすための夏の勉強法】では、「渋幕の理科」「開成の算数」を例に難関校入試の傾向を読み解き、必要な対策や勉強法などについて詳述している。


