夜行列車、旅のカタチに変化 「青春18きっぷ」ユーザーに人気だった在来線、一夜限りの値段は「3万7,500円」
移動と「一夜を過ごす場所」
こういった奇妙な逆転現象が生じている一因は、とりもなおさず昨今の物価高と、インバウンドを見込んだホテル代の上昇である。観光庁の統計では2025年のビジネスホテルの客室稼働率は年間75.3%に達しており、宿泊需要は高い水準にある。都市部のホテル価格はこの数年で3~4割上昇、1泊2万円超えが珍しくなくなってきた。
こうした状況では、夜に通常の新幹線で移動して大阪で1泊するとなれば、新幹線代に加えて万単位の宿泊費が必要になる。逆に東京を22時に出発し、翌朝7時前に新大阪へ着く「ルミエールエクスプレス」は移動と「一夜を過ごす場所」を兼ねると考えれば、必ずしも割高な商品ではない。
もう1つ興味深いのが大垣の扱いだ。かつての「ムーンライトながら」ユーザーにとっては、大垣は最終目的地ではなかった。列車を降りたら次の普通列車に乗り継ぎ、さらに西へ向かう。次の列車に乗り換えるための「大垣ダッシュ」がミーム化したり、大垣は長い旅の中継点として記憶されてきたわけである。
ところが今回のツアーは、その大垣で旅行者を降ろすだけではない。地元の市場まつりを訪れ、さらに海津温泉へ向かう。新幹線が通らない大垣エリアの観光活性化という商機も見出しての、「ムーンライトながら」復活である。
では、現在の在来線夜行は、このような高額なツアーにしなければ成立しないのだろうか。
必ずしもそうとは言い切れない。JR西日本の「WEST EXPRESS 銀河」は、2026年も夜行運転を行っているが、基本的には通常の乗車券と特急券などで利用できる。沿線での観光体験は乗客の選択に委ねている。一方で、JR東日本が来春導入予定の夜行特急「ルナ・アズール」は、全車グリーン個室になる計画でラグジュアリー路線を行く。
同じ在来線の夜行でも、「銀河」は列車を触媒に旅と観光の需要を喚起し、「ルナ・アズール」は最初からちょっとゴージャスな非日常の旅を提供。今回復活した「ムーンライトながら」は新幹線ではカバーできなかったエリアの魅力を発掘するなど、3社それぞれ異なる性格を打ち出していると考えた方がよさそうだ。
かつては「高くても速い新幹線」に対し、「時間はかかっても安い在来線」という図式があった。ところが物価高やホテル代の上昇、旅行スタイルの変化によって、その関係は固定的でなくなってきた。
実用的な夜の移動を新幹線が担える可能性が出てきたほか、在来線の夜行はプレミア化してきた「サンライズ瀬戸・出雲」も含めて、沿線観光や非日常の体験に価値を見いだすようになった。
今回の2列車は、そんな変化を象徴しているのかもしれない。今後「夜の列車」がどんな形で定着していくのか、その行方にも注目したい。





