妻と触れ合いたくて押し倒したら、会社に弁護士がやって来た 「触れない不倫」でも満たされない40歳夫の孤独

  • ブックマーク

それでも妻は「離婚したくない」

 翌日、会社に妻の弁護士がやってきて、家に帰らないよう指示された。妻は、「夫婦関係を円満に戻すための調停」を申し立てる予定だという。隆行さんとしては、もういっそ、離婚しようかとも思っているのだが、妻は離婚を望んでいるわけではないという。

「あなたも弁護士を立ててもいいと言われましたが、僕にそんなお金はありません。その日から一度も、妻とは会っていないんです。しばらくして調停が始まりましたが、あまりうまくいかなくて、そろそろ離婚調停になるかもしれません」

 何がどうなっているのか理解しがたいのが本音だと、隆行さんは言った。妻は離婚はしたくない、結婚生活を円満に戻したいという。問題なのは、隆行さんの「性欲」だろうか。

「麗子の男嫌いは本物だったんでしょうね。だったら結婚なんかしなければよかったのにと思うけど、僕自身にも同じことが言えます。しかもあの日、僕はなぜか急に一般的な男性のような性欲を妻に感じてしまった。いきなり襲ったようなものだから、妻が怒るのもわからなくはない」

 彼自身は、もう二度と妻を襲わない自信はあるが、逆に妻への人としての興味も失ってしまっている。結婚生活を続ける意味もない。

麗子さんの同僚と知り合い、「触れない」関係に

 妹は「やっぱりあの人、闇があったでしょ」と言った。妹の出自の件を知られたくないし、自分の性的嗜好も伏せたいから、妹には曖昧に話を濁している。妹は「おにいちゃんの有利になるかも」と、麗子さんの同僚を紹介してくれた。

「彼女は麗子をあまりよく思ってはいないみたい。正直言って、彼女から話を聞いても離婚の条件が有利になるとは思えないけど、妹の厚意だから会ってみました。それ以来、ときどき彼女と会っています。既婚者なんですが、なんだか意気投合してしまって……。彼女とホテルに行ったこともあります。相変わらず僕は触れることはしなかったけど、ベッドに横たわった彼女を、じっくり眺めさせてもらいました」

 気持ちが落ち着いた。「何もしてないから不倫とはいえないわね」と言って、ちょっとホッとしたような彼女の表情に、少しだけ気持ちが落ちた。ところが次の瞬間、彼女は言ったのだ。

「私、隆行さんが好き、と。僕、ストレートに好きと言われたのは初めてだったから、かなり驚きました。そういえば自分の中に、『好き』という感情があまりなかったような気がするんです。僕には人として決定的に何かが欠けているのかもしれないと感じました」

 好きと言われてシンプルにうれしかったと彼は言う。

なんだか孤独なんですよ

 この先、調停がどうなっていくのかは不透明だ。いつか離婚となるのかもしれない。妹が紹介してくれた人妻ともまた会ってしまうだろうが、彼女は彼の性的嗜好を理解しているとは思えない。なんだか孤独なんですよと彼はつぶやいた。

「それにしても、数年の間に身内のいろいろな秘密が明るみに出て、本当に精神的に疲れました。僕自身の性的嗜好もあまりいいものとも言えませんしね。そもそも結婚しなければよかった。その一言に尽きるのかもしれません」

 彼自身の性的嗜好をはらんだ生き方が、麗子さんという頑なな女性を引き寄せたのか。真実を知ったときは父と母の関係を不思議だと思ったが、最近では羨ましいと感じるようになったと隆行さんは言った。

 ***

 妻ではない女性に「好き」と言われても、隆行さんの孤独は消えない。記事前編では、女性に触れたくない彼が麗子さんと出会い、奇妙な結婚生活を築くまでを紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。