“大リーグボール養成ギプス”も“星飛雄馬の燃える瞳”もマンガ家・川崎のぼる氏の“創造”だった! “「巨人の星」は梶原一騎の原作をそのまま描いただけ”という誤解を一蹴する評伝『劇画の巨星 川崎のぼる伝』の凄み
『荒野の少年イサム』――コマンチ族の「瞳」
本書は『巨人の星』だけを綴る本ではない。《第3部 傑作の森》では、『スカイヤーズ5』『アニマル1』『ムサシ』『フットボール鷹』『新巨人の星』『てんとう虫の歌』……多くの名作が回想される。熱血柔道マンガとして始まったはずの『いなかっぺ大将』が、ドタバタギャグに変貌する過程もていねいに解説される。
名作『荒野の少年イサム』(山川惣治原作)については、特に紙幅が割かれている。日本人男性とアメリカ先住民女性との間に生まれた、イサム少年の物語だ(当初は、山川惣治の『ノックアウトQ』をマンガ化する予定だったという)。
1971年、永井豪『ハレンチ学園』終了で部数が低迷していた「週刊少年ジャンプ」で連載開始、たちまち読者アンケートで連続1位を獲得。「ジャンプ」がふたたび100万部を回復する、その大黒柱となった作品である。
川崎さんは初期のころから、大好きだった西部劇を描いていた。それだけに今回は集大成にしようとの意気込みをもって取り組んだ。人種差別問題、情け容赦ない残酷描写、リアルなガン・アクション、壮大な自然描写などが存分に盛り込まれた。第1部終了後にはテキサスやアリゾナへ現地取材に飛んだ。これぞ、川崎のぼる最高傑作と称される名作だ。その魅力が、徹底的に解説される。『イサム』について、ここまで細かい論評は、初めてではないだろうか。もちろん、ここでも原画がたっぷりと紹介されている。
「取材も苦労しました。古い話なので、関係者の記憶もあいまいで、資料類も誤記が多い。登場する作品や雑誌、書籍は、すべて初出原本にあたって確認しています。そのため、東京へ出張に行くたびに国会図書館にこもりました」(池田文化部長)
担当編集者の木下さんは、こう語る――「本書は、マンガ作品にかんして、テクニカルな視点がとても充実しています。たとえば『イサム』の項で、〈それまで感情を持たない集団として白目で描かれてきたコマンチ族に初めて瞳が描かれ、恐怖におののきながら斃れていく。〉との記述があります。よくここまで読み込んでくれたものだと、しばしば涙が出ました」。
手塚治虫『火の鳥 復活編』に、川崎さん自身が『いなかっぺ大将』に登場していた姿で登場するパロディ・シーンも発見! その図版もある(筆者は長年、このカットは馬場のぼるだと、勘ちがいしていた)。
この時代の少年マンガの研究書は多いが、本書は斯界にとどめを刺す、決定的なノンフィクションである。ここまで徹底的な取材調査と愛情あふれる評伝が、当時を知らない若い書き手によって書かれたことも驚きだ。川崎のぼる作品は、時代を超えた衝撃に満ちていたのである。
(一部敬称略)
【第1回は「本書を読まずして『巨人の星』を語るなかれ! 俗説を覆す決定版評伝『劇画の巨星 川崎のぼる伝』が登場――執筆者、編集者が語る熱い思いとは」】
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