急増する「子供が嫌がることはさせない」親のせいで 「失われた30年」はこれからも延々と続く
急増する小学生の暴力行為との関係
この個人塾経営者が話す最近の子供の傾向は、以下に示すデータと、じつはつながっていると思われる。文部科学省の調査によると、2024年度に小学校、中学校、高等学校で発生した暴力行為の件数は12万8859件で、3年連続で過去最多を更新したという。なかでも小学校での発生件数は10年で7倍に急増し、2014年には中学生のものが全体の約66%を占めていたのが、2024年には小学生が約64%に達したという。
もちろん、統計上の増加には、学校が従来よりも細かな事案まで把握し、報告するようになった影響も考えられる。また、この数字だけで、子供の忍耐力が低下したと断定することはできない。それでも、感情を抑えたり、望まないことにも一定時間取り組んだりする経験の不足と、無関係ではないのではないかと考える。
世の中、自分の思い通りに進むことのほうが少ない。だから腹が立ったり、気持ちが沈んだりすることはある。そんなときに自分の気持ちを適切にコントロールできる力を、子供のころから少しずつ身につけていくべきで、具体的には、小さいときからがまんすることを学ぶことが大切だ。
ところが近年、子供にがまんすることを教える親が急減している。いい方を替えれば、子供がなにをしても叱らない親が急増している。その結果、子供ががまんすることを学ぶ機会が失われてしまった。
なぜそうなったのか。複雑な要因がからみ合っているとは思うが、あえて主要な要因だけを抜き出せば、1つは1990年代に「ほめて育てる教育」が欧米から輸入され、急速に普及したことが挙げられる。「日本の子供は自己肯定感が低いので、ほめて育てて自信をつけさせるべきだ」と声高に叫ばれ、それが大流行になった。
「ほめて育てる」教育の落とし穴
子供を叱るにはエネルギーが必要だ。叱らずに済み、そのほうがむしろいいといわれれば、親にとってはありがたい。だから急速に浸透したのだろう。だが、「ほめて育てる教育」を日本に輸入する際、大事なことが抜け落ちていた。
筆者は仕事柄、欧州とのあいだを往復しているので感じるが、欧州では子供をほめながらも、子供に厳しい。歴史的に個人主義が根づいているので、親は幼少時から子供を自分と別人格としてあつかい、子供が公の場で他人に迷惑をかけないように、日本よりずっと腐心している。また、成績が悪ければ小学校でも落第するように、社会全体が子供を厳しく育てている。厳しい実社会を生き抜く耐性を身につけるためだが、社会が子供に厳しいので、親は子供が自己肯定感を失わないように「ほめて育てる」必要がある。
ところが、日本では欧米の前提を無視して、「ほめて育てる」という表面だけを輸入してしまった。だったら、学校現場だけでも厳しさを保っていればいいが、1990年代の後半から、モンスターペアレントという言葉や現象が注目され、親の行きすぎたクレームを避けるために、学校現場でも子供を叱る機会は急速に失われていった。
そうこうするうちに、2010年前後からハラスメント意識が急速に浸透し、学校現場でもいままで以上に、怒ったり叱ったりすることが制限、または忌避されるようになった。いま小学生の暴力行為が急増するなかで、授業中に騒いだり、席を立ったり、暴れたり、ほかの子供や教師に暴言を吐いたりする子供が増えているが、それでも教師は叱ることができない。むろん親も、学校からそういう報告を受けたとしても子供を叱らない。
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