国民が理解する前に成立「副首都構想」関連法案 あくまで維新のための法だというこれだけの理由

国内 政治

  • ブックマーク

維新に報いるために国を売った

 いずれにしても、なぜいま急に副首都法案なのか、よくわかりません。たしかに、東京で大災害が発生したとき、バックアップしてくれる都市があったほうが、いいことはいいかもしれません。しかし、その場合は、地域ごとに災害が発生する可能性などを確認のうえ、バックアップできる場所の候補を綿密に検討する必要があったと思います。あらたに副首都をもうけるというのは、国の統治機構の根幹にかかわることなのですから、熟慮が必要なのは当然のことです。

 災害は待ったなしなので急ぐ必要があった、というのが、今国会での成立にこだわった表向きの理由のひとつです。しかし、緊急性を言い出せば、なんでもそうです。それこそ、止まらない物価高を食い止めるための円安是正こそ、国民生活や国力の維持を考えたら、何倍も喫緊の課題のはずです。それなのに、そちらは置き去りにして生煮えの法案を強引に通したのは、通さなければならない別の理由があったからでしょう。

 そもそも「副首都構想」自体、災害時のバックアップ機能が柱なのか、東京一極集中の是正と地方の振興が柱なのか、それすらよくわかりません。目的がひとつに定まっていない時点で緊急性は乏しく、内容をもっとよく検討すべき案件であったことは明らかだと思います。

 結局、多くの人が指摘するように、「高市政権が発足できたのは維新のおかげなので、その恩に対する返礼だ」ということなのでしょう。実際、維新はこの法を、大阪府を廃止して特別区をもうける悲願の「大阪都構想」の実現につなげようとしています。

 副首都に選ばれれば、前述のように多額の予算がつくことは目に見えています。言い換えれば、副首都ができれば、あらたな財源が必要になります。大阪を副首都にして、たくさんの国費を注ぎ込んでもらって、地元の経済を潤わせたい、というのが維新のねらいだとしたら、野党などが指摘したように「我田引水」もはなはだしいといえます。そうした維新の目論見の実現を優先した高市総理も、自分を総理の座に就かせてくれた維新に報いるために国を売った、というそしりは免れないように思います。

国民のためではなく大阪のための構想

 維新にとって「副首都構想」関連法案が、「大阪都構想」を実現するためのお膳立てであったのは、法が成立したのちの吉村代表の発言からも明らかです。

 吉村代表は以前から、副首都指定に向けた特別区設置に関する投票、つまり「大阪都構想」への賛否を問う住民投票を、来春の統一地方選と同じ日に実施することをめざす、といい続けてきました。実際、地方選と同日に住民投票を行えば、選挙戦で候補者が「都構想」に賛成するように訴えることができますから、維新に有利だと見られています。

 しかし、それでは維新にとっての我田引水がすぎるので、与野党が話し合って、「副首都構想」関連法案の採決にあたり、「住民投票と地方選挙が同日実施にならないように最大限調整する」という付帯決議をつけることで合意したのです。

 ところが、可決されるとすぐに吉村代表は、「最終的に僕自身が投票期日を決める権限はありませんが、僕自身は(同日選を)めざしていきます」と、付帯決議を完全に無視した発言をしました。ここから維新とりわけ吉村代表が、国民のためでなく大阪のために、「副首都構想」をごり押ししたことがわかります。

 要するに、「副首都構想」関連法とは、大阪に国費をたんまりと注ぎ込ませるための、大阪が本拠である日本維新の会の戦略だ、と言い切ってまちがいないと思います。どういう条件の都市が副首都としてふさわしいのか、などとていねいに検討していたら、大阪が選ばれる可能性はどんどん低くなってしまいます。だから、国民が「副首都構想」について熟慮する前に、なんとしても成立させてしまいたかったのでしょう。

 ですから、私たちが「副首都構想」についてよく理解していないのは、当然なのです。ただ、ある法案が国民ためのものなのか、ほかのだれかのものなのか、ということを、これを機に私たちはよく考えるべきだ、という教訓にはしたほうがいいと思います。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。