“野球を賭けの対象にしない”はなぜ変わったのか NPBが“野球くじ”へ舵を切った理由
風向きが変わった理由
“三度目の正直”となる今回は何が変わったのか。
「2、3年前から球界を取り巻く環境は大きく変化していました」
そう語る記者によると、背景には三つの要素が重なっていた。
「まず第1に“スポーツ振興財源への危機感”、第2に“振興くじ制度への信頼”があります」
少子化による競技人口の減少、地方球場の老朽化、女子野球や障害者野球への支援、地域クラブへの助成――。スポーツ振興に必要な資金は年々膨らむ一方である。その一方で、スポーツ振興くじ制度は20年以上運営され、一定の社会的信頼を獲得してきた。スポーツ振興のための制度として国民の理解も広がり、制度そのものへの評価は導入当初とは大きく変わっていた。
さらに見逃せないのが、
「“海外スポーツベッティング市場の急拡大”です」
日本国内では認められていない海外サイトを利用したスポーツベッティングは、インターネットの普及によって身近な存在となった。違法市場へ資金が流れる現状を前に、“健全な制度の中でスポーツ振興へ還元する仕組みを考えるべきではないか”という議論が以前より現実味を帯びてきたのである。
制度の検討が進められる一方で、公表のタイミングはより慎重さが求められた。
「一昨年、水原一平元通訳による違法賭博事件、昨年の複数のプロ野球選手によるオンラインカジノ関与が明らかになり、違法賭博への社会的関心はかつてなく高まりました。そんな状況で“野球くじ”を打ち出せば、“違法賭博を容認するのか”と誤解されかねない状況でした」
唐突にも思われる今回のタイミングが、実は周到に計算されていたことがわかるだろう。
「予想させない」ことが最大の特徴
今回、導入が想定されるのは、2018年に検討された時と同様、いわゆる“予想系”のくじではない。オーナー会議でも、勝敗予想型ではなく“非予想系”を前提に検討が進められるとの説明があった。具体的には、サッカーくじ「BIG」と同様、コンピューターがランダムに組み合わせを決める方式が有力だ。
「球界としては、勝敗予想を前面に出さないことで、八百長リスクをできる限り抑えたい考えです」
もっとも、この方式にも大きな課題がある。
「野球ファンほどデータ分析を楽しみ、自ら勝敗を予想したい人は少なくありません。その楽しみを切り離した商品がどこまで支持を集めるのかは未知数です」
黒い霧事件から半世紀余り。2015年の野球賭博事件、近年のオンラインカジノ問題を経て、球界は“野球を賭けの対象にするのか”という問いから、“どうすれば公正さを守れる制度をつくれるか”という新たな段階へ踏み出そうとしている。
「野球くじは、早ければ2028年シーズンからの導入を目指しているとのことです」
その成否を左右するのは、制度そのものへの信頼、そしてファンが“投票したい”と思える魅力を備えられるかどうかである。
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