ネトフリ配信が話題の「火垂るの墓」 公開当時「となりのトトロ」と2本立てとなった「事情」とは
映画公開から38年。野坂昭如原作、高畑勲監督によるスタジオジブリ制作の「火垂るの墓」(1988年)が、7月15日からNetflixで配信されている。この機会に、本作が作られた時代と、その後の映画に与えた影響を振り返ってみよう。(映画ライター・金澤誠)
史上初めて出版社2社が製作した2本立て映画
「火垂るの墓」は、作家・野坂昭如が実体験を基に書いた小説で、兵庫県神戸市や西宮市を舞台に、14歳の清太と4歳の節子の兄妹が、第二次世界大戦の終戦前後の混乱期を、二人だけで生き抜こうとするが、それが叶わず死んでいく物語である。原作は1967年に『オール読物』に掲載。翌年の短編集『アメリカひじき・火垂るの墓』に収録されて、第58回直木賞を受賞した。
この小説が、なぜスタジオジブリ制作の映画になったのか。かつて、作品の企画としてクレジットされている鈴木敏夫(後のスタジオジブリ・プロデューサー)に取材した際に聞いた話をご紹介する。
鈴木は当時、『月刊アニメージュ』(徳間書店)の編集長だった。彼は「風の谷のナウシカ」(1984年)、「天空の城ラピュタ」(1986年)に続く宮﨑駿監督作品として、「となりのトトロ」(1988年)を企画する。だが日本が貧乏だった昭和30年代の田舎を背景に、トトロというお化けと子どもたちの交流を描くこの作品の企画は、社内で賛同を得られず、やるならオリジナルビデオではどうか、ということになってしまう。
そんなとき鈴木は、同僚の亀山修から新潮社の初見國興を紹介された。初見は当時の新潮社の社長・佐藤亮一から、これからは新潮社も文芸だけでなくアニメーションや漫画に手を出せと言われていて、それらの分野に詳しい鈴木の意見を聞きたかったのだ。鈴木はそこで、新潮社が文庫で出している「火垂るの墓」をアニメーションで作ることを提案する。
大学生時代から原作が好きだった鈴木は、徳間書店でも「火垂るの墓」のアニメーション化を提案したことがあるが、その時は却下された。しかし、新潮社が「火垂るの墓」を製作し、「となりのトトロ」を徳間書店が製作して、出版社がコラボレーションする2本立てなら、話題性もあって企画が成立すると考えたのだ。
上映時間がどんどん伸びてついには…
この2本立ては、当初それぞれ60分程度の中編を想定していた。ところが、高畑勲監督は物語ではなく、清太と節子が二人で生活して生きていく姿をリアルに描くことにこだわり、細部のディテールを描き込むことで作品は長くなり、90分を超えるものになっていった。「となりのトトロ」を監督する宮﨑駿はそうした状況を知り、高畑監督へのある種の対抗心もあって、こちらも80分を超える作品となっていった。
そして公開の3か月前になって、「火垂るの墓」は完成が間に合わないことがわかった。それでも何とかしようと、鈴木敏夫は新潮社の製作委員会プロデューサー・村瀬拓男と、絵コンテから削除する場面を選んでいった。それでも着色の作業が追い付かないので、鈴木は高畑監督を連れて、製作委員会で製作総指揮を務める当時の新潮社の社長の元へ謝罪に向かった。結局「火垂るの墓」は、いくつかの場面が線画だけで着色されないまま、公開日を迎えた。
2本立ての公開初日は、1988年4月16日。配給収入は5億8800万円で、これはスタジオジブリの前作「天空の城ラピュタ」の5億8300万円と同程度の数字だった。2本立てで製作費がかかっていることを考えれば、決してヒットと呼べる成績ではない。
「アニメーション」へのイメージを変えた2作品
興行的に今一つだった「となりのトトロ」と「火垂るの墓」だが、その後のスタジオジブリの歴史を見れば、非常に重要な2本立てだった。
「となりのトトロ」はキネマ旬報ベスト・テンでアニメーション映画として初めて、日本映画部門の第1位を獲得(ちなみに「火垂るの墓」は第6位)。他にも、報知映画賞監督賞(宮﨑駿)、毎日映画コンクールの日本映画大賞と大藤信郎賞などを受賞した。「火垂るの墓」は、第1回モスクワ児童青少年国際映画祭グランプリを始め、シカゴ国際児童映画祭の最優秀アニメーション映画賞、国際児童青少年映画センター賞など、海外からも高い評価を得た。
アニメーションはそれまで、子ども中心に観客層を想定するものだというイメージが一般的だった。「となりのトトロ」と「火垂るの墓」はそういったイメージを取り払い、大人たちにはノスタルジーや人間ドラマを感じさせ、子どもたちには観て楽しかったり、切なさを感じさせる、すべての世代にアピールする作品として認知された。
この2作品は、作られてから40年近くたった今でも、観る者の心を惹き込む映画であり続ける。「火垂るの墓」に関しては、清太と節子が過ごした夏から秋にかけて見直すと、胸に迫るものが格別強い。子どもたちだけで生きていくことの難しさは、「火垂るの墓」の時代背景では「戦争」が影を落としているが、今では「貧困」がその代わりに大きな問題になっていることも感じさせ、描かれているテーマは時代を超える。
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新潮QUEで配信中の【「アニメーション」ではなく「僕らの映画だ」――「火垂るの墓」と「となりのトトロ」は何が画期的だったのか】では、『火垂るの墓』が映画化されるまでのより詳しいいきさつや、原作者・野坂昭如の反応、同時上映された2作品が画期的な作品だと評価される理由について、より詳しく伝えている。


