「助ける必要のない客には塩対応」 深夜タクシーがテーマの「ミッドナイトタクシー」が面白い
余計なことはしゃべらず、客の会話は聞こえないフリをするが実はしっかり聞いている。期待されているような返答、リップサービスは一切しない。分からないことは「分からない」と断言する。助ける必要のない客には塩対応。酔客や危うげな客には慎重に対応。小芝居や優しいうそが必要ならば、付き合う茶目っ気と懐の深さもある。冷静で老成、29歳のタクシー運転手・蘭象子(あららぎしょうこ)が主人公の「ミッドナイトタクシー」が面白くてね。
深夜タクシーに乗ってくる客の多種多様な事情は興味深い。切なかったり(介護地獄や解雇、余命宣告)、馬鹿馬鹿しかったり(アイドルになりたい魔法使い)、生々しかったり(詐欺商法や美人局、自殺願望やカスハラ)。決してほっこり癒やし系ではないが、違うベクトルの安寧と平穏な諦観を感じる結末。正解を躍起になって探しがちな令和にぴったりの軟着陸手法である。
しかも、それぞれのエピソードの断片がちょこっとずつリンクする快感もある。名作2時間ドラマのように、タクシー運転手が推理力と行動力と人情で問題をズバッと解決するわけではない。象子はむしろ客の言葉に案外引きずられ、悶々と考え過ぎる傾向も。迷ったままの大人たちが繰り広げる悲喜劇と、深夜タクシーの相性の良さったら! 帯ドラという丁度いい尺でテンポよく進む物語には、ライトな人生訓がちらほら。
で、蘭象子を演じるのは、古川琴音。幼少期は海外を転々とし、母親に捨てられて(生き別れて)からは、伯母で芸能事務所社長の蘭弥生(和久井映見)に育てられたという役どころ。複雑な生い立ちで培った泰然自若ぶり、でもどこか幼さも残す。そんな象子に琴音の独特の雰囲気と声音がしっくりハマっている。おかっぱ頭&無表情の背景を言外ににじませることにも成功している。
多忙な弥生の口癖は「もう無理!」。象子はおばさんでもお母さんでもなく、ムリさんと呼ぶ。弥生の事務所に所属する人気俳優・寿々木(すずき)麗華(伊藤万理華)は突拍子のない天真らんまんな性格だが、人気稼業の息苦しさと孤独を抱えているようだ。友達は象子だけと言う。
象子が勤務明けに寄る喫茶店のマスター・昼川(ひるかわ)源を演じるのは竹中直人。象子が客に関するキーワードで注文をムチャブリするのだが(苺定食や石焼き芋ビビンパ、筒状の食べ物など)、すべて完璧に対応。源さんは元運転手、象子をタクシー業界に誘った経緯がある。竹中の優しい声はいいなと改めてかすかに感動している。
象子の後輩運転手・平良芽衣(たいらめい/小林桃子)はややややこしい。仕事ぶりが完璧な象子に敬意はあるが、気遣うと距離を置くムズい子だ。距離が近い常連客といえば、タワマン住まいのサラリーマン・柴崎八雲(やくも/中村 蒼)。愛を探しているとのたまうスケコマシだが、美人局に遭ったりしてね。トンチキエリートがしっくりくる蒼。運命の出会いという展開も。
乗客が残す言葉や言霊は、もうすぐ30歳になる象子に微妙な影響を及ぼしていく。象子の心模様も見どころの一つである(たとえ変わっても、変わらなくても)。








