「夜市のニオイが無理に…」台湾駐在妻を襲った異変 家のドアノブも拭き続ける“息苦しいまでの強迫観念”の意外な正体とは

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根底にあった実母との複雑な親子関係

 カウンセリングを重ねると、亜弥さんの本当の不安の正体が見えてきた。それは、台湾での生活環境への不満ではなく、幼少期から彼女を縛り続けてきた実の母親との関係性だった。

 亜弥さんは子どもの頃から、実母から過度な干渉や心理的な抑圧を受け続けて育った。小学校低学年からスカートや長い髪を禁止され、成人するまではメイクも許されず、もちろん男子や恋愛、男性アイドルに関する話さえもご法度……そんな「潔癖すぎる実母」との関係に強いプレッシャーを抱えたまま大人になった亜弥さんは、心の奥底に「母のようになったらどうしよう」という不安を隠していた。そこへ、海外生活という環境の変化や、それに伴うストレスが重なった。

「亜弥さんが作った食事で子どもがお腹を壊したという事実が、幼い頃に彼女が母親から受けてきた『親から害を与えられる恐怖』の記憶と重なってしまったのです。『私も母と同じように、自分の子どもに害を与える存在になってしまったらどうしよう』という恐怖や不安。それが菌や衛生面への恐怖という、借り物の不安に形を変えていたのです」

 根底にある親子関係の問題に気づき、「子どもがお腹を壊したこと」と「過去の母親との問題」は別問題だと冷静に捉え直せるようになったとき、亜弥さんの行為は落ち着きを見せていった。

周囲は、症状の否定ではなく寄り添いを

 もし身近に突然、衛生への過度な不安に囚われてしまった人がいる場合、周囲の接し方には極めて慎重な配慮が求められるという。

「亜弥さんのケースでは、いくら日本とは食文化や生活環境が違う国とはいえ、何度も手を洗ったり、外食を過剰に拒んだりする姿は、神経質すぎる異常なワガママ行動だと周囲からは映るかもしれません。しかし、それは内面の不安から身を守るための無意識の手段です。亜弥さんのような親子関係の葛藤だけでなく、過去に受けた虐待や性被害など大きな傷が隠されているケースもあります」

 そこで最もやってはいけないのが、周囲がその強迫症状をむやみに否定したり、無理やりやめさせようとしたりすることだと前川さんは強調する。

「関係性にもよりますが、よかれと思って本人の過去の傷を無理に聞き出そうとすると、土足で心に踏み込まれるような感覚を与えてしまいます。また、相手を拒絶するような『消毒し過ぎはヤバい』『嗅覚おかしいよ』などの否定的な言葉も避けるべきです」

 では、身近な人にできる正しいサポートとは何なのだろうか。

「行為そのものを無理に直そうとするのではなく、『今、何か困っていない?』『衛生面は大丈夫? この国って色々大変じゃない?』など、本人が抱えている辛さそのものに寄り添ってあげることです」

 まずは、安心して弱音を吐ける環境を作ってあげることが大事なようだ。

「その中で、本人が『実はちょっと大変で』とか『ほんとはこう変わりたい』といったニーズを見せてくれたらチャンスです。『こういう方法もあるよ』と臨床心理士や心療内科などへ繋げてあげてください。専門家が症状の裏にある心の痛みに寄り添い、一緒に解決のお手伝いをします」

 本人のニーズを引き出し、自然な流れで専門家に繋げる――それが回復への第一歩になるという。

※紹介する事例は、プライバシー保護等のため、アレンジを加えている。

取材・文/荒木睦美

デイリー新潮編集部

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