河合優実の「相手役」は誰なのか 「あまちゃん」チームが集結した朝ドラ「ほんのモキチ」
「いだてん」の演出も井上氏
「いだてん」で井上氏がつくった映像も称賛された。例えば、かつての東京・日本橋の街並みを再現したシーンである。すべてをCGで処理してしまうのが一般的だが、それを避けた。福島県内のスタジオに日本橋の大規模なミニチュア・セットを組み、太陽光の下で撮影。その映像を合成することで、建物の陰影まで表現した。
井上氏は宮藤氏からの信頼が厚い。NHKが「ほんのモキチ」で井上氏を起用するのは、宮藤氏の世界観を過不足なく映像化するため。そのため、放送開始から67年続いた朝ドラの伝統を破り、既に局外の人間である井上氏を演出の中心に据える。
初の試みの2つ目は朝ドラがNEPとの共同制作になること。朝ドラは「聖域」とも言われ、これまでNHK以外が制作することはなかった。NEPの社員数は約600人。NHKが株の大半を持つ株式会社で、NHKからの出向者もいるが、独自の採用も行っている。独立した会社だ。ドラマに特化した部署もあり、人材も豊富。NEPと共同制作する「ほんのモキチ」は、強力な制作体制となる。
「ほんのモキチ」の次席の制作統括は訓覇圭氏(59)。「あまちゃん」「いだてん」では筆頭の制作統括だった。やはり宮藤氏から信頼されている。今回も局内外で「宮藤氏と近い訓覇氏が事実上の制作トップ」と言われている。
訓覇氏はNEPへの出向経験がある。その出向中に渡部篤郎(58)主演の「外事警察」(2009年)の制作統括を務め、ヒットさせた。NHK復帰後もNEPとの共同作業を何度も経験している。訓覇氏の存在があるから、NHKとNEPの制作陣の間に溝が生じるような恐れはないだろう。
訓覇氏は「NHKドラマ部門のエース」と呼ばれ、井上氏と同じく数々の賞に輝いている。かつての名ドラマ制作者の名前を冠した「大山勝美賞」や、日本映画テレビプロデューサー協会が主催する「エランドール賞」などである。
訓覇氏の作品の特徴は作家性が強いところ。斬新なドラマがNHKで放送されたら、かなりの確率で訓覇氏の作品だ。神尾楓珠(27)が主演した「17才の帝国」(2022年)の舞台は、近未来の斜陽化した日本だった。中井貴一(64)が主演し、都会人が偽りの母親と故郷を愛する異色作「母の待つ里」(2024年)も訓覇氏が手掛けた。
河合の相手役は?
訓覇氏は障がい者のいる家族の幸福な暮らしを描いた「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(2023年)もつくった。この作品も高評価を得て、ドラマ各賞に輝いた。主演は河合優実だ。訓覇氏はすでに河合の力量や持ち味が分かっている。ちなみに訓覇氏の妻は石田姉妹の妹・石田ひかり(54)である。
「ほんのモキチ」の筆頭制作統括は板垣麻衣子氏(40)。やはりNEPへの出向歴がある。出向中には石橋静河(32)が主演し、代理母問題や地方出身者の貧困などを描いた「燕は戻ってこない」(2024年)も手掛けた。企画し、プロデューサーを務めた。この作品も放送文化基金賞のドラマ部門奨励賞などを受賞した。板垣氏は今、テレビ界で注目される女性ドラマ制作者の1人だ。
放送開始まであと1年9か月もあるため、主要な制作スタッフは発表されているものの、出演陣で明かされているのは河合のみ。歌人・斎藤茂吉の妻である輝子さんをモデルにした杜テル子を演じる。奔放で負けず嫌いな猛女だ。
茂吉をモデルにしたテル子の夫・杜モ吉役は誰になるのか? 宮藤氏の脚本はその世界観を壊さずに映像化するのが難しいが、演じるのも簡単ではない。深遠なテーマも笑いに包み込んで伝えるため、シリアスもコメディも演じられる俳優が求められる。
また宮藤氏はあて書き(演じる俳優をイメージして脚本を書くこと)を得意としている。よく知る俳優ほど持ち味が発揮されるため、モ吉役は宮藤作品の経験者が演じると見る。
その点、河合はTBS「不適切にもほどがある!」(2024年)で宮藤作品を経験済みだ。その特性が分かっている。シリアスもコメディも完成した演技を見せるから、宮藤氏の望みに満点で応えられる。
モ吉役は仲野太賀(33)が候補に挙がるのではないか。「いだてん」、ディズニープラス「季節のない街」(2024年)、フジテレビ「新宿野戦病院」(2024年)と宮藤作品に出演し、期待に応えてきた。シリアスもコメディも得意だ。
放送は1年9か月も先だが、期待は膨らむばかりである。
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