夫の赴任先・テキサスに届いた「お母さんが危ない」 日本にいる姉は「なぜもっと早く知らせてくれなかったのか」…駐妻が抱いた怒りの正体
ただでさえ、遠く暮らす親の健康は気がかりなもの。だが国を超え、どうにもならない距離と時差が生まれると、次第に案じる気持ちもマヒしてきて……。自身も駐在員の妻として海外帯同の経験を持つ、駐妻専門カウンセラー・前川由未子さんに取材。駐妻とその実家との“苦しい関係性”について聞いた。
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【写真を見る】自身も駐在妻だった、美貌の駐妻専門カウンセラー・前川さん。アメリカ赴任中に自死してしまった前川さんの実母もまた悩める駐妻だった
夫の仕事の関係で、アメリカのテキサス州に暮らして3年目になる香織さん(仮名・43歳)。夫の駐在が決まる1年ほど前、実母はつまずいて転倒し、腰の骨にヒビが入ったことで自宅にこもりがちになっていた。そんな母を日本に残して発つことを案じていた香織さんだったが、同居する父親も健在だったことから「両親はお互いに支え合って、静かに老後の暮らしを営んでいる」……そう思っていた。
「加えて、実家と隣接する市に姉が暮らしており、ちょっとした料理の作り置きや病院への送迎など、何かと日常の世話を焼いてくれていました。私だけ遠く離れた海外に身を置いていたので、心配は心配でしたが『まぁ大丈夫だろう』と、どこか楽観視していたと思います」(香織さん、以下同)
ところが、母はかつて患った大病が再発。さらに冬には肺炎にかかって入院、身体は急激に弱っていった。
容体がそこまで急変するとは予測していなかった父と姉は大慌て。テキサスに住む香織さんへの連絡は後回しとなり……香織さんが連絡を受けたのは、「もう危ない」というタイミングになってしまった。香織さんは、パニックになりつつも急いでフライトを手配。帰国の調整をして駆けつけたが、母の死に目にあうことは叶わなかった――。
なぜ、もっと早く知らせてくれなかったのか。
家族からの連絡が遅かった背景を、香織さんはこう推測する。
「きっと、目の前の看病や病院での対応に追われて、海外にいる私に連絡を入れる心の余裕がなかったのでしょう。父や姉を責めることはできません。でも、それならどうしてもっと前に、せめて病気が再発した段階で教えてくれなかったんだろう。年老いた父はともかく、姉は普段から実家のサポートで、ずっと母のそばにいたはずなのに、なんで……と思ってしまうんです。
私を心配させまいという姉の優しさだったのかもしれませんが、結果的に私だけが母の最期に間に合わなかった。家族の重大事から蚊帳の外に置かれた気がして……。そうやって邪推してしまう自分も嫌なのですが、どうしても姉に裏切られた気持ちになって不信感が拭えないんです」
大好きな母の最期を看取れなかった行き場のない辛さと大きな悲しみは、やがて姉への怒りの感情へと形を変えていった。それ以来、かつては仲の良かった姉と香織さんの間には、埋めることのできない深い溝が生まれてしまったという。
すれ違う双方の言い分
心理カウンセラーとして多くの相談を受ける前川さんのもとには、親の介護や突然の死別をきっかけに家族間で深刻なトラブルが生じた海外在住者の悩みが寄せられることは、決して珍しくないそうだ。
「日本で実際に親の面倒を見ている側からすれば、日々の泥臭い介護や、突発的なお世話を完全に任されている状態。にもかかわらず、大事な局面にだけ海外から現れたきょうだいのほうがちやほやされたり、さらには『もっとここをこうして』『ここはああして』などと横槍を入れられたりしたら、当然面白くないですよね。だから、あえて逐一連絡をしないということも考えられます」(前川さん、以下同)
さらにそこへ「海外駐在員の妻という華やかな環境で、キラキラの贅沢な暮らしを享受しているのではないか」といった、国内に残された側特有の偏見や、やっかみの心理が複雑に絡み合ってしまうこともある、と前川さんは分析する。
「このようなケースでは、お互いの立場を思いやる視点が双方に欠けていることが多いです。海外に駐在している側は、日本の家族が日常的にどれだけの労力と時間を割いて親のケアを担ってくれていたのか、もっと想像力を働かせて気遣うべきでした。日頃からこまめに連絡を取って、日本のきょうだいの愚痴や苦労を聞いてあげるだけでもいい。きょうだいが負う心配やストレスのガス抜きになったはず」
同時に、日本にいる側も、海外に駐在している側の孤独や不便さ、いざという時に物理的にすぐには動けないという、やむを得ない事情を理解する姿勢が大切だった。
「お互いへの想像力が働かないまま、圧倒的にコミュニケーションが欠けていたことこそが、確執の最大の原因ではないかと思います」
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