夫の赴任先・テキサスに届いた「お母さんが危ない」 日本にいる姉は「なぜもっと早く知らせてくれなかったのか」…駐妻が抱いた怒りの正体

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すぐ日常に戻る過酷さ

 香織さんが抱えている本当の感情は、怒りではなく「悲しみ」です、と前川さん。

「心理学において、怒りは『二次感情』といわれます。根底には悲しさや悔しさといった『一次感情』があるのですが、それらの行き場がないと“怒り”となって表面化します。人間にとって、悲しみを真正面から味わうことはあまりにも辛く耐え難い。そのため、誰かのせいにするなど、怒りとして周囲にまき散らすほうが精神的に楽なのです」

 ただし攻撃的になれば、対人関係の溝を深める原因となる。特に海外居住者の場合には、突然の死に慌ただしく帰国し、葬儀に参加する。それが終われば現地に戻って、すぐにまた何事もなかったかのように「もとの日常」が始まるのだ。

 異国での日常をあわただしくこなすことで、親しい人の死を実感する時間がない。一見、良いことのように思えるが、いつまでも現実感が湧かず、死を受け入れるのに時間がかかることにもなる。結果、罪悪感が生まれ、喪失感が長引きやすくなってしまう。

「日本国内にいれば、四十九日や新盆などを通じて時間をかけて遺品を整理したり、折に触れて家族や親族が集まって故人の思い出を偲んだりする時間があります。そうしたプロセスを経て、人はゆるやかに死という現実を受け入れ、傷を癒やして回復していけるのです」

 海外駐在生活では、近くに悲しみを素直に吐き出せる人がいなかったり、泣きたいときに思いきり泣けなかったりする。そうした環境と、悲しみを受け止めてくれる場や人のなさが、当事者を最もしんどくさせるという。

「一人で抱え込まず、まずは夫や友人、あるいは心理カウンセラーなど、自分が安心してありのままを話せる場や相手を見つけ、しっかりと時間をかけて気持ちを言葉にしていくことが、心の回復には不可欠です」

※紹介する事例は、プライバシー保護等のため、アレンジを加えている。

取材・文/荒木睦美

デイリー新潮編集部

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