松たか子、樋口可南子、薬師丸ひろ子、原田知世、松坂慶子…「夫婦とは何か」を考えさせる名作映画5選
夫婦の幸せの長さ
〇「35年目のラブレター」(2025年)
角川映画は1982年、薬師丸ひろ子の成功を得て新人募集をした。その時、渡辺典子と共に選ばれたのが原田知世だ。「時をかける少女」(1983年)でデビューした原田は、薬師丸の持つ強い存在感と違い、淡く儚い少女のイメージで大きな人気を得る。デビュー42年目の本作では、原田はとても素敵な妻を演じた。10代を知る人が見れば、良い歳の取り方をしたなと、感慨にふけるかもしれない。
西畑保(笑福亭鶴瓶)は、子供時分のある事情により読み書きができない人生を送ってきたが、65歳の退職を機に夜間中学で文字を習うことを決意する。長年の苦労を知っている妻・皎子(原田知世)はそんな夫を応援する。そして入学初日の自己紹介で、保は字が書けるようになったら妻にラブレターを書くと宣言するのだ。
若き日の夫婦は、重岡大毅と上白石萌音が演じていて、物語に厚みを与えている。結婚当初、読み書きができないことが妻にわかってしまった時、皎子は「辛かったね。あんたが書ける日まで今日から私があんたの手になる」と言う場面はとても温かい。
やがて、ようやく書いた保のラブレターを読んだ皎子のセリフがいい。「幸」を「辛」と間違えている保に「頑張ってここに一本足せば、辛いこともちょっとのことで幸せや」と。
「長年連れ添った妻にラブレターを書く」。そんな話は照れくさいと思う人もいるだろう。でも頑張って得た幸せはそんなに長くは続かないものだ。そう思えば、自分も妻に手紙を書いてみよう、そんな気になるかもしれない。
狂気と日常の間に
〇「死の棘」(1990年)
私小説の極北と言われる島尾敏雄の同名作品を、「泥の河」の小栗康平監督が映画化。夫の浮気により精神のバランスを崩していく妻役で、松坂慶子の演技が絶賛された。
台所の床に座って妻のミホ(松坂慶子)が、夫・敏雄(岸辺一徳)の浮気を責め立てる場面から始まる。襖に飛び散ったインクの跡が、直前の修羅場を想像させ生々しい。ミホは敏雄の日記に書いてあったことを、静かで抑揚のない声で問い詰めるのだ。ノーメイクで臨んでいる松坂はとても美しい。だからこそ狂気を帯びた様子が震撼たらしめる。
普段は穏やかでやさしいミホだが、発作を起こすと性格が一変して別人のようになる。それが続くと受け止めるだけの敏雄もおかしくなり、突然走り出し線路にしがみついたり、裸になって肺炎になってやるなどと言う。それを見たミホも「私だって」と一緒に裸になるなど、滑稽なところが痛切であり哀しい。この夫婦の行き着く先はどこなのだろうと暗澹たる思いに沈むのだ。修羅場はなおも続く。敏雄の浮気相手が訪ねてくると、ミホは捕まえて組み伏せ壮絶な暴力を振るう。その結果ミホは精神科病院に入院してしまう。
作中、戦争末期に2人が出会って恋をした加計呂麻島の風景が度々差し込まれる。その時を描いた映画が「海辺の生と死」(2017年)で、満島ひかりと永山絢斗がミホと敏雄をモデルにした役を演じた。死に直面しながら惹かれあう2人を見ると、その後の「死の棘」に至るまでの時の経過を考える。夫婦とは何か、共に人生を歩むということは。そんな問いを強烈に突きつける作品である。
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