大ヒット必至 Netflix「ガス人間」を徹底解剖 「とにかくハマリ役」と評される“大物俳優の息子”とは

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

名作だった原作映画

 水野はパイロットになりたくて航空自衛隊の試験を受けたが、不合格となり、その後は図書館職員として空虚な日々を送っていた。そこへエゴイストの天才科学者が現れ、水野を理想的な宇宙飛行士にしようと細胞の改造を図る。だが、失敗。水野はガス人間という異端者になってしまう。

 当時の変身人間映画は普通の人間に戻れない悲しみや、周囲から怪物として差別される怒りが物語の中心に据えられるのが常だったが、水野は違った。自分の意思でガス状にも人間にもなれた。新作ドラマと同じだ。

 異端者の孤独は抱いていたものの、それ以上に藤千代を愛する気持ちが強かった。水野は殺人を伴う銀行強盗を繰り返し、藤千代を経済的苦境から救う。困窮から脱した藤千代の周囲には、かつての弟子たちが戻ってくる。この辺は高度成長期だった当時の行き過ぎた金銭至上主義を風刺している。

 その後、藤千代は水野による自分への援助が、悪事の上に成り立っていると知る。水野は故郷の土地を売ったとウソを吐いていた。

 藤千代は激しく揺れ動く。水野はたった1人の支援者で、どこまでも自分を愛してくれた。誰よりもやさしかった。一方で悪事は許されない。その悪事によって自分が救われた罪悪感に苦しむ。

 結局、藤千代は水野の愛を裏切らず、同時に水野と共に自分を裁く道を選ぶ。これ以上なく悲劇的な結末だった。水野がガス化するシーンなど円谷さんによる特撮が作品を下支えした。アナログ時代とはとても思えない技術だった。

 本多さんは1933年、東宝の前身であるPCLに入社した。黒澤明監督と同期だった。「羅生門」(50年)などが世界に認められた黒澤さんに対し、本多さんは「モスラ」(61年)、「マタンゴ」(63年)などを撮り、特撮映画の第一人者となる。両監督は互いの才能を認め合う親友だった。

「世界のクロサワ」が本多さんを認めたのは、その作品に根底に独特のヒューマニズムがあったからだろう。本多さんの作品には共通点がある。人間のエゴが社会を破滅の危機に陥れるが、それを救うのも人間の愛や良心だった。

 八千草さんの夫であり、代表作に三船敏郎さん主演の「奇巌城の冒険」(66年)がある谷口千吉監督も同期。やはり本多さんと仲が良かった。既に大物女優だった八千草さんが特撮映画に出たのは、谷口さんを通じ本多さんと親しかったから。当時29歳の八千草さんによる日本舞踊シーンは息をのむほどに美しい。

 新作ドラマ「ガス人間」は本多作品を現代風に大幅にアップデートしてあるが、科学者のエゴが怒りや悲しみを生むところは受け継がれている。さらに格差社会、弱者に対する搾取、メディアの横暴などを批判的に描いている。

 企画・製作は本多作品と同じ東宝。特撮はアナログからデジタルに変わっているが、おどろおどろしさを過度に強調せず、どこかスマートなサスペンスになっている。東宝のDNAが継承されているからだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。