119番通報から病院到着まで約60分――東京の「救急搬送」はなぜ全国で最も遅いのか

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逼迫する二次・三次救急病院

 かといってそういった救急患者がすべて「軽症」とは言いきれないという。

「不整脈や高血圧症、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、糖尿病などの基礎疾患があり、さまざまな薬を服用していると、ちょっとした転倒による骨折でも治療が複雑になり、重症となりやすい。そうなると整形外科だけでなく、循環器科や呼吸器内科、糖尿病内科など、いくつかの診療科の専門医の手が必要になります。そのため小規模や診療科の少ない二次救急病院では請け負えなくなり、当院のような三次救急の総合病院に転送されてくる事態になります」

 国内では救急医療を担う病院を三段階に分けている。軽症患者に対応する「初期救急医療(一次救急)」、中等症・重症患者向けの「第二次救急医療(二次救急)」、重症患者を中心に受け入れる「第三次救急医療(三次救急)」に分類し、患者本人や救急隊の判断で、軽症だと思えば一次救急へ、重症なら二次や三次救急の病院を受診することが求められているのだ。しかしそこに明確な分類基準はない。

「だから総合的な診療能力がある三次救急の当院や、普段から重症患者を積極的に受け入れている基幹的な二次救急病院に患者が集まりやすい」と中田医師が続ける。

「本来、我々は一番ひどい状態の時の治療や手術を請け負う、高度な急性期医療をしなければなりません。ですから手術後は身近な開業医の先生のところに通うか、自宅に戻れない場合はリハビリのための慢性期に対応する病院に転院していただきたいのです。でも、それを患者さんやご家族にはなかなかご理解いただけない。『市民病院なのに、なんでそんなにすぐ転院(退院)しろ!と言うんだ』と、こちらが見捨てたように受け取られてしまう」

“終末期患者”の蘇生措置はどうすべきか

 自宅近くに専門医も設備も完備された大きな総合病院があって、そこに入院していれば、遠方の設備が劣る病院に移ることに不満を感じる、という気持ちもわからないでもない。

 だが急性期医療を担う三次救急の病院でベッドが空いていないと、救急隊からの重症患者の受け入れ要請の連絡があった時に「当院ではすぐに対応できません」と受け入れを断ることにつながる。となると救急隊はまた違う病院に受け入れ要請をしなければならない。救急車に収容されている患者が病院に搬送されるまでの時間が遅くなるとともに、1台の救急車を占拠する時間も延びるため、その次の救急患者にも影響を及ぼしてしまうのだ。

 現在、救急患者の7割を占めるのは「急病」である。人は年を取るほど体調を崩しやすくなるのだから高齢化社会に伴って救急搬送は今後もますます増えていくだろう。

 そのような中、救急医療で選別されるのは、患者の重症度や緊急性のみ。年齢や生活の自立度は考慮されない。だから例えば、長年、寝たきりである超高齢者の急変を助けるために、若者や子どもの命を救えないという事態につながってしまうかもしれない。

 それを避けるには、一人一人が救急医療に頼るのは“緊急事態”であって、普段はかかりつけ医にお願いするという意識を持ちたい。

 中田医師も「手術後やリハビリ、普段の健康相談などは、急性期以外の病院で対応することを納得していただきたい」と重ねて言う。

 また現代の救急医療で最も混乱を招いているのは、「終末期」の対応だ。

 福岡県の飯塚病院顧問で救急科専門医の鮎川勝彦医師はこう話す。

「特にがんを含めた慢性の病気を持つ人は、常に終末期のことを家族と話題にしてほしい。死が近くなった時、『救急車を呼ぶ』というのが儀礼的にされている面がある。もちろん呼んでもいい。けれどもかかりつけ医と相談して家で最期を迎えると決めれば、必ずしも119番で救急車を呼ぶ手順を踏まなくてもいいのです」

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 終末期の救急医療では医療側・患者側ともに土壇場で重大な判断が迫られる。「新潮QUE」では、【病院到着まで60分――東京の救急搬送はなぜ全国で最も遅いのか】【高まる「コンビニ受診」批判は本当か――あなたがすぐに119番すべき“緊急事態”の実例】【急患受入数が全国最多 「湘南鎌倉総合病院」が“断らない救急”を実現できる理由】として、日本の「救急医療」の最前線をレポートする。

笹井恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト。1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランス。日本文藝家協会会員。『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『宇宙飛行士を支える医師“宇宙酔い”への挑戦』(金の星社)など著書多数。「根拠ある医療健康情報」(PRESIDENT)、「著名人の健康法」&「救急箱」(Hanada)などを連載中

デイリー新潮編集部

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