楽天・三木前監督「休養」の衝撃…実況アナだからこそ気づいた「優勝するプロ野球チームの監督はどこが違うのか」

  • ブックマーク

監督の目指すもの

 選手個々のベクトルが同じ方向を向くことの強さについて、一例を出します。1988年、ドラゴンズが優勝した年のことです。私の入社前ですが、現在は解説者で、当時は現役選手だった複数の方から聞いたエピソードです。

 7月7日、札幌・円山球場の巨人戦で延長11回サヨナラ負けを喫し6連敗。首位・巨人とのゲーム差は5で、チームは4位となりました。試合時間は4時間22分に及び、当日帰名予定も飛行機に間に合わずにキャンセル。急遽、延泊となりました。

 憤懣やるかたない当時の星野仙一監督は、コーチ陣には打開策を練らせ、選手には「今夜は返ってくるな」と夜のススキノに追い立てたそうです。

 コーチ陣が出した打開策は「走らせます」の一言。翌日、名古屋空港に到着した一行はナゴヤ球場に直行し、炎天下の中、レフトとライトのポール間を往復するポール・トゥ・ポールダッシュを10往復。懸命に取り組む選手に、容赦なくコーチの怒鳴り声が飛んだと言います。

 この時、選手たちが抱いた感情は「怒り」だったそうです。真面目に、懸命に取り組んでいるのに怒鳴られる不条理。この「怒り」が、ベクトルを一つの方向に向ける大きな原動力になったのです。

 前日の試合で、延長のきっかけとなった同点ホームランを打った仁村徹さん(64・当時の登録名は仁村弟)が、ダッシュ終了後の青空ミーティングでコーチ陣に対し「俺たちは自分の仕事をするからほっといてくれ!」と啖呵をきり、コーチ陣と選手間は一触即発状態になったそうですが、翌日から12勝1敗と驚異的な成績で劇的な逆転優勝へつながったのです。

 星野仙一さんほど個性、感情が表に出る監督でさえ、様々な葛藤を抱え、苦しみ、メンバー個々を同じ方向へ向かせることに腐心していた事実を前に、私は考えます。

 野球は必要に応じてプレーが止まり、そのたびにサインが出されるゲームです。ベンチ入りしている選手を含め、全員のベクトルが一致していれば、展開によって目まぐるしく変わる作戦を咀嚼できるでしょうが、そうでなければ「なぜだ」という疑問が生じるでしょう。

 極論すれば「プロ野球の監督」とは、以前にも書いたように「孤独」と戦いながらチームのベクトルを統一する仕事、と言えるかもしれません。

 今回休養が発表された楽天三木監督は、球団を通じて「シーズン中にこのような形となり、大変悔しく、不本意な思い」とのコメントを発表しました。球団によって方針や考え方に違いがあるにせよ、もし三木監督がチームのベクトルを統一する道半ばだったとしたら、その無念さは察するに余りあります。

 推しチームが弱いことを喜ぶファンは一人もいないことはわかっています。
だからといって周囲が書き込んでいるからと、軽い気持ちで「この監督ではだめだ」というような書き込みは慎んでいただければ幸いです。その声一つひとつが塊となれば、人ひとりの人生を左右することになるからです。

村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。現在、バンテリンドームナゴヤのDAZNドラゴンズ戦実況、「プロ野球ニュース」(フジテレビONE)などに出演中。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。