刃の欠けた「草刈り鎌」が次々と……実家がゴミ屋敷と化した「国家公務員」が抱える“認知の歪み”とは

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草刈り用のカマが次々と……

 だが今春、再びAさんから電話連絡が入った。「実家の片付けを進めたい」というのである。あんなに急いで始めた片付けだったのに、まだ「2年前のまま」ということを聞き、驚いてしまった。

 そこであんしんネットの作業員とともに3月末、Aさんの実家に行った。「ゴミ屋敷」は健在だった。そして2年ぶりに会ったAさんは、以前よりもイライラしているように見えた。この日を迎えるまでにあんしんネットの溝上大輔さんが見積もりに行き、【1階の物を全て処分する】という約束で作業日が設定されたはずなのに、作業日当日になって「どうすればいいかわからない」とつぶやくのだった。

「この家を片付けて処分したい」と言ったかと思えば、「売ってしまったら定年して将来住むところがなくなってしまう」と頭を抱えるAさん。

「とにかく現状では住むことも売ることもできませんから、片付けの作業を進めましょう」と本件の現場チーフである溝上さんが声をかけると一旦納得したものの、「ひとつひとつ、自分でいるかいらないかの確認をしたい」という。ゴミ部屋を片付ける場合、全ての物を撤去か、取っておきたい物をあらかじめ作業員に伝えるのが一般的で、いちいちその場で判断していては時間がいくらあっても足りないのだが、そう説明してもAさんは譲らない。

「わかりました。それではひとつひとつ確認しましょう」

 溝上さんが、Aさんに要不要を尋ねていくことになった。

 例えば玄関にある灯油の入ったポリタンク。――いるか・いらないか。
「この家に住むなら、いります」

 玄関から何枚も出てくる軍手。
「より綺麗なもの、もっと手のサイズに合ったものがあるかもしれないから、取っておきたい」

 次々に出てくる草刈り用のカマ。
「ひとつだけ取っておきましょうよ」と溝上さんが声をかければ、「どれを選べばいいんですか?」とAさん。溝上さんが「これにしましょう」と言うと、「その根拠は?」と尋ねる。溝上さんは顔色を変えることなく「他は刃が欠けているからです」と答える。

 ***

 なぜ社会的地位が高くても家を整理することができないのか。「新潮QUE」では、【実家を片付けられない「国家公務員」はなぜ「ゴミ屋敷」を認識できないのか】【教師、医師、大企業の社員がなぜ… エリートたちが抜け出せない「ゴミ屋敷」という迷宮】として、エリートがゆえに家がゴミ屋敷化してしまう「特有の事情」を詳述する。

笹井恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト。1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランス。日本文藝家協会会員。『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『宇宙飛行士を支える医師“宇宙酔い”への挑戦』(金の星社)など著書多数。「根拠ある医療健康情報」(PRESIDENT)、「著名人の健康法」&「救急箱」(Hanada)などを連載中

デイリー新潮編集部

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