政治家はなぜ公約を破っても平気でいられるのか 『バカの壁』養老先生の深い考察
「食品の消費税をゼロにする」「ナフサは足りている」「私も秘書もサナエトークンや中傷動画には一切関与していない」――どれが本当でどれが嘘なのかについて見解が分かれているが、万一全部が嘘でもそこまで大きな驚きはないだろう。政治家は平気で嘘をつく、というのは一種の常識となっているからだ。
なぜ「平気」なのか。理由については「とにかく当選するため」「そういう人種だから」など諸説あるだろうが、現代人特有の「カン違い」がある、と指摘するのは、ベストセラー『バカの壁』で知られる養老孟司さんだ。同書で養老さんは、「情報は日々変化するが、自分は変わらない」という考え方は、「あべこべの話」だと述べている。
どういうことか。養老さんの本質をついた考察に耳を傾けてみよう(以下、『バカの壁』より抜粋・再構成しました)。
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変わるのは「情報」ではなく「自分」
一般に、情報は日々刻々変化しつづけ、それを受け止める人間の方は変化しない、と思われがちです。情報は日替わりだが、自分は変わらない、自分にはいつも「個性」がある、という考え方です。しかし、これもまた、実はあべこべの話です。
少し考えてみればわかりますが、私たちは日々変化しています。ヘラクレイトスは「万物は流転する」と言いました。人間は寝ている間も含めて成長なり老化なりをしているのですから、変化しつづけています。
昨日の寝る前の「私」と起きた後の「私」は明らかに別人ですし、去年の「私」と今年の「私」も別人のはずです。しかし、朝起きるたびに、生まれ変わった、という実感は湧きません。これは脳の働きによるものです。
脳は社会生活を普通に営むために、「個性」ではなく、「共通性」を追求することは既に述べました。これと同様に、「自己同一性」を追求するという作業が、私たちそれぞれの脳の中でも毎日行われている。それが、「私は私」と思い込むことです。こうしないと、毎朝毎朝別人になっていては誰も社会生活を営めない。
では、逆に流転しないものとは何か。実はそれが「情報」なのです。ヘラクレイトスはとっくに亡くなっていますが、彼の遺した言葉「万物は流転する」はギリシャ語で一言一句変わらぬまま、現代にまで残っている。彼に「あなたの“万物は流転する”という言葉は流転したのですか」と聞いたら何と答えるのでしょう。
このように永遠に残ってしまう言葉を情報と呼びます。情報は絶対変わらない。私がインタビューを受けたとして、同じ聞き手に同じように聞かれても、話すたびに内容は微妙に変化します。しかし、話した内容を収めたテープの中身は変わらない。生き物と情報との違いはまさにこれです。
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