「まさか日本でこんなことが起きるとは…」 徳島県が“気鋭の建築家”の展覧会に「中止要請」 渦中の建築家「石上純也氏」が明かす胸中
展覧会の企画がまとまるまで
――今回の石上さんの展覧会は、どのような経緯で行われることになったのでしょうか。
石上:地元の建築家のみなさんも、ホールの計画が遅々として進まず、暗礁に乗り上げていることを懸念していました。そこで、JIAの方が僕に声をかけてくださり、講演会を開催したのです。JIAの講演会は普段なら建築関係者しか来ないのですが、地元の関心の高さの表れか、一般の方々や地元メディアもたくさん来てくださいました。
僕の講演を通して、既に2000枚の図面が完成していることを、初めて知った人も多かったようです。その後、JIAの方から、県民の方にプロジェクトの詳細を知ってもらい、目にも触れてもらう機会を作ろうと提案があり、展覧会の話が進んだというわけです。
――県民のみなさんにも、ここまで計画が進んでいたということが、十分に知られていなかったのですね。
石上:僕たちと県が結んだ協定は破棄されておらず、実は今も続いているのです。並行して新しいプロジェクトが進められているので、横におかれている状況にあります。今回の県の中止要請の根拠は、県の占有地で、県のプロジェクトの方針に反する展覧会をしてほしくないというものでした。
しかし、繰り返しますが、県との協定は残っているのです。僕たちの計画のほうがふさわしいと、県民の機運が盛り上がってくると困るわけです。協定も存続していて、しかもここまで図面ができていて工事が始められる状況なのに、なぜやらないんだ、という声が上がって来る可能性があるわけですから。
思いのこもったプロジェクトの全容を見てほしい
――知事選の段階では、石上さんの計画を白紙にしてゼロからプロジェクトを進めた場合は半額の削減、つまり約100億円が削減できるという話も出ていたようです。しかし、時間がかかってこじれた結果、建設費や人件費の高騰で、当初の建設費を上回るのではないかという予測も挙がっています。
石上:僕の口からははっきりとは言えないことも多いのですが、大幅に予算が増える可能性は十分にあると思う。であれば、経済的、時間的、都市計画的な観点でも、藍場浜(注:県が現在進めているホールの建設予定地)にする意味がなくなってきます。こうした事実を踏まえた冷静な比較は、これまでにほとんどなされていません。
言うまでもなく、ホールは県民のための施設ですよね。本来であれば、県民が僕たちの案と現在進んでいるプロジェクトの比較ができるようにすべきなのです。今回の展覧会で県は混乱をきたすと言っていますが、混乱は行政側の問題。県民からすれば、展覧会を通して民主主義的な形で知る機会になったと思うので、中止要請は驚きでした。
――石上さんはこのホールの建設に情熱を傾けてきました。展覧会は、県民のみなさんに、その思いを知っていただく機会にもなるのではと思います。
石上:ありがとうございます。実際、僕はこのホールの計画に強い思いを抱いてきました。2000枚描き上げた図面があるし、模型も作りました。それらが葬り去られてしまうのは心が痛かった。建築家としての思いを、展覧会を開くことでみなさんに伝えたかったのですが、それすら踏みにじられた形になりました。
僕は何年もかけ、真摯にプロジェクトに取り組んできました。その成果を見てほしいという思いを、県が許容してくれなかったのは悔しいですね。県からしたら、建築事務所なんて一業者にすぎず、図面を描いているだけだと思うかもしれません。しかし、僕たちは徳島県の未来を見据え、将来の都市の姿を思い描きながら図面を描いてきました。
そもそも、展示する内容は、県の別の部署とやりとしてきて、確認してもらっているものです。にもかかわらず、異なる部署から夜に電話が入り、翌日に中止の書類が届いている。僕は世界中で建築のプロジェクトに関わってきましたが、そのなかには、言論や表現の自由が厳しく規制されている国もあります。まさか、現代の日本で、そんなことが起こってしまうとは夢にも思いませんでした。
第2回【「徳島県民の“知る機会”が奪われてしまう」…県はなぜ建築家「石上純也氏」の展覧会を中止に追い込んだのか 背景に後藤田県政で迷走する「県立新ホール」建築問題】では、気鋭の建築家・石上純也氏が設計した徳島県の「徳島文化芸術ホール(仮称)」の建築の可否を巡って県との間で起こっているトラブルについて、石上氏本人に詳しく話を伺うとともに、石上氏の設計案を紹介する展覧会が急遽中止に追い込まれた理由について、県の担当者にも話を伺っています。
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