覚醒剤の密売で名を馳せた“美しすぎる姐さん”が「女には絶対にシャブを売らへん!」と言い続けた理由…「シャブは“女の骨までシャブる”んだ」
「あんた、ほんま熱心だね。また今度ね」
美々姐の密売手法はこうだ。電話番が客から注文を受けると、数名のテコ(配下)がいくつかのアパートから指定場所までブツを配達する。当時としてはオーソドックスな方法である。
むろん彼女が密売に際して表に出ることはない。それどころか、彼女が外出する際は常に屈強なボディーガードが帯同しており、私たちの尾行は困難を極めた。
美々姐の密売をめぐってテコや数名の客を逮捕したものの、誰一人として彼女自身のことを口にしない。周辺のヤクザたちからも一目置かれる存在だった。
「美々姐は見た目と違ってほんまきっぷのいいお人や。盆で見たけど背には羽衣天女、両腕(かいな)には弁天財と鯉が入っとる。ほれぼれすんで!」
「なるほど。これが若くして姐さんと呼ばれるようになった所以か」などと思いながら、筆者は時期をずらして3回ガサを打ち込んだ。しかし、いずれもスカを喰らった。賭場を差配した経験のある彼女はシケ張り(見張り)を徹底しており、ブツの分散、隠匿、保管も完璧だったのだ。筆者は結果的に彼女を逮捕することができなかった。
ガサの現場で「姐さん、頼むから教えてくれ……。どうして女には売らないんだ?」と尋ねても、彼女は「あんた、ほんま熱心だね。また今度ね」と目元を和らげるだけ。完全に私の負けだった。
そんな彼女が傷害事件で逮捕された。敵対組織(シャブ屋)にかち込みをかけて、相手のボスを半殺しにしたのである。拘置所に移送された彼女から、キンマの私宛に手紙が届いた。優しさの滲む字で書かれていたのはこんな文章だった。
「熱心な男前さん! 話が聞きたいのなら面会においで」
「シャブを教えるのはいつも男なんだ!」
筆者は小躍りし、喜び勇んで拘置所へと向かった。そこで見た彼女は、驚いたことに丸坊主だった。
「すべて終わり……。もうカタギ(堅気)になるの。これは反省の印。ね、オシャレでしょ」
そう言って照れながら、彼女は初めて「女に薬物を売らない理由」を明かしてくれた。
「マトリのあんたなら分かるでしょ、シャブは男より女を傷つけるって……。シャブは“女の骨までシャブる”んだよ。惨めな痩せ方をして皮膚は荒れるし、髪も傷んでくる。生理が狂うし、流産はするし、肝臓までイカれてしまう。“モノ”のためなら何でもする女だって出てくる。回された挙句に売られてしまう子も……。だらしなくなって、梅毒に感染したのに放置する子だっている。しまいには日に3度、4度とミミズ腫れの血管に針を突き刺して意味不明なことを口にするようになる。何かに怯えて自殺する子も珍しくない……。女はね、一旦、手を出すと、なかなか抜け出せないんだ。男よりも中毒なんかがきついんだよ。学生の頃、男にシャブやコカインを教えられて、うち自身がどれだけ苦しんだか。実の妹もね……。シャブを教えるのはいつも男なんだ!」
堰を切ったように彼女は話し始めた。
――そうだったのか……。でも、それならどうして姐さんは小売りなんかしていたんだ?
「死んだ旦那と組が借金抱えていたから……。まぁ、これは理屈にならないよね。でも、女にはゼッタイに売らない! このルールだけは最後まで通したよ。ほんまや! うちの子(若い衆)たちも誰も身体に入れへん(使用していない)」
これを機に筆者は美々姐と数奇な縁をもつことになる。美々姐の劇的な物語は未だ鮮明に記憶しているが、それはともかく、彼女が語った「ドラッグは男より女を傷つける」という見解は本当なのだろうか――。
後編【「薬をやめれへん…彼氏にも愛想を尽かされてしもうた」 元マトリ部長が説く「薬物依存」や「ドラッグの健康被害」が女性にとってより深刻な理由】では、科学的な知見を交えながら検討してみたい。
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