王者セブンを作った男 “ツナマヨおにぎり”だけじゃない…鈴木敏文氏が築いた「コンビニのかたち」

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「社員は”した”しか言わない」——強権と顧客第一主義の両立

 鈴木氏のトップダウンは有名だった。「できない」「前例がない」は通用しない。でもその判断基準は常に「消費者は本当に便利か?」だった。社長の好みでも社内政治でもなく、お客様目線を軸にしたトップダウンだったからこそ、現場が「厳しいけど合理的」と受け入れた。

 また、鈴木氏自身がセブンの弁当や中食を日常的に食べ、品質を確認し続けたことも見逃せない。休日でも自宅近くのセブンで弁当を購入し食べていたという逸話や、経営者にありがちな会食が少ないといったエピソードも聞く。自ら生活者の舌で商品を評価したことは間違いなく、「金の食パン」に代表される高付加価値プライベートブランド(PB)の路線を打ち出せたのも、「PBは安かろう悪かろう」という常識を疑い続けた結果だ。

訃報を聞いた際の喪失感

 一時はコンビニ業界の王者として君臨したセブンだが、今はかつてほどの勢いはない。その背景には2015年に展開した「オムニチャネル戦略」の失敗があったこと、それが鈴木氏の肝入りで始まり、次男・康弘氏を2014年にセブンHDの執行役員に招いて始まったことは、きちんと触れておく必要はあるだろう(別記事「セブンの独り負けは『弁当の上げ底』だけが原因じゃない 9年前から王者凋落の兆しはあった」参照)。

 私がこの業界で敬う偉人は、ダイエーを創業した中内功氏と鈴木氏の2人だ。奇しくも両者とも、晩年は世襲絡みの問題が影を落としたといえる。圧倒的な推進力を持つカリスマ経営者ゆえに、後継者問題という宿命は避けて通れないのだろうか。

 とはいえ、「コンビニチェーン」を超え、分散型の民間生活インフラ網を作り上げた功績は論を俟たない。思えば、ローソンに勤務していた当時、「負けたくない」と常に意識していたのは、企業としてのセブンではなく、その精神的支柱だった鈴木氏その人だったように思う。当時コンビニに携わっていた方は皆同じではないか。鈴木氏の訃報を聞いた際の喪失感は、同じ業界に生きた者にしかわからないかもしれない。

 ライバル企業の創業者の訃報が、これほど心にポッカリと穴を開けるとは思っていなかった。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著に『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(馬渕磨理子氏と共著、フォレスト出版)がある。

デイリー新潮編集部

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