ベテラン歌手の自宅が「中国製バッテリー爆発」で全焼 被害は4,500万円だけじゃない…本人が語る喪失と“ネット通販の闇”
暗い年の瀬
そんなZOOCOさんを更なる悲しみに陥れたのは、“自分の家が燃えたという現実”を受け入れられずにいる娘の姿だった。
「泣きながら、燃え残った煤だらけのピアノの鍵盤をひとつずつ拭いていました。煤ってあんなに臭いものなのですね、一生忘れられない匂いです。そんな匂いが染みついたボロボロの楽器を、娘は“燃えていない”と言い張って手放さなかった。学校でも火災のことを一切口にせずにいたそうですが、さすがに“娘さんの様子がおかしい”と帰される日も多くなりました」
当時、自宅が火災になっていると知らずに戻って来た娘は、消防士たちが鉄のドアをカッターで切り、吹き出す煙の中、水をかけながら突入している場面に遭遇した。ショッキングな光景を目撃したことで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になり、全身に湿疹が出るなどの症状がしばらく続いたという。
折しも年の暮れ。不動産業者が休みに入ると、一時的な仮住まいも探せなくなった。またペットのトイプードルも神経過敏になって、受け入れ可能なホテルが見つからない。それから約100日間、キッチンも風呂もない、マンション内の会議室を借りて避難生活がスタートした。
「まずメガネ。それからパンツを買いました」
住所がないのでネット通販も容易にできない。着替えを買いに行こうにも着ていく服がない。コインランドリーと銭湯に通う日々。東京都の銭湯は1人1回550円、10回の回数券で5,400円だ。そんな地味な出費が辛かった。ライブの仕事はあっても、火災についての一切を告げられないまま舞台に立ち続けた。
クリスマスシーズン、みんながハッピーな気持ちの中、「火事にあったかわいそうな人が歌うクリスマスソング」——そんな重い空気を客席に持ち込みたくなかった。何より、娘が「誰にも言わないで」と懇願していた。
暴発するリチウムイオン電池
なぜ、充電もしていないバッテリーが突然発火したのだろうか。
東京消防庁のデータによると、リチウムイオン電池関連の火災は近年急増しており、令和5年だけで都内167件を数える。そのうち「いつも通り使用していたが出火」というケースが39件、全体の23.4%に上る。充電中だけでなく、非充電中(待機中含む)の発火も65件(38.9%)あった。
責任の所在を明らかにするため動き始めたZOOCOさん。リチウムイオン電池は、充電していない状態でも内部に微量の電荷が残り続けることがあり、基盤の不具合が重なったりすることで、突然ショートし、数分で400度近くまで達する爆発的な発火を引き起こす可能性があると知った。
「何万個に1個かもしれないけれど、誰がそれに当たるかわからない。犬が娘を散歩に連れ出してくれたことで、奇跡的に全員の命が救われましたが、家と家族の思い出は全焼しました。本当に危機一髪で恐ろしいことです」
また、消防と専門家が分解・X線解析を行い、約50ページにわたる「リチウムイオン電池の自然発火の理由」報告書を作成。2026年3月に総務省消防庁に提出されたという。
だが、問題はバッテリーそのものだけではない、とZOOCOさんはいう。
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