なぜ、朝ドラ「風、薫る」は急に面白くなったのか “ダブルヒロイン”が輝き始めた決定的な転機

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バーンズとの対決

 次に7人を待っていたのは敵。当初のバーンズである。7人に来る日も来る日もベッドメイキングをやらせた。ずっと合格点を与えなかった。

 医者志望だった多江には無駄な学習に思えてしまい、憤る。りんもバーンズに対し「何が看護なのでしょう」と反意を表す。ほかの生徒も閉口した(第20回、同4日)。

 やがて7人はバーンズの陰口を叩くようになる。巧妙な構成だった。生徒が教師の悪口を言い合うと、往々にして生徒同士の距離が縮まる。現実でもよくある。最初からクラスの生徒たち全員が結束しているドラマもあるが、現実離れしている。

 バーンズがベッドメイキングを繰り返し行わせたのは清潔を保つために欠かせない作業だから。バーンズはナイチンゲールの教えを受けた。ナイチンゲールは自分が目立ったり、讃えられたりすることを嫌った。バーンズも学校側の評価や生徒の人気を求めない。ただし自らの職務には忠実だ。そんなバーンズを生徒たちは尊敬するようになり、慕い始めた。

 看護学校での座学は第30回(5月8日)まで。締めくくり方も心憎かった。多江は退学を考える。父で医師の仙太郎(吉岡睦雄)から医学生との結婚を促されていたからである。

 だが、多江は看護婦の仕事にも惹かれるようになっていたため、決意が固まらない。やっとクラスメートに「辞める」と宣言するが、直後に熱を出して倒れてしまう。

 ベッドに横たわる多江を、看護をしたのはクラスメート。次々とやって来ては「大丈夫?」と語り掛けた。一方でバーンズは多江が喉の渇きをおぼえたとき、すーっと現れ、水を出してくれた。多江の意識がもうろうとしているときだった。

 目ざめた多江はクラスメートに対し、うるさかったと文句を言う。もちろんウソである。見ていてくれたことがうれしかった。一方で多江はバーンズによる一流の看護婦ならではの心配りに胸打たれ、退学を撤回する。結婚はやめた。

 多江の父親・仙太郎も悪い人物ではなかった。娘の選択を尊重する。多江が勝ち気だから、どこも雇ってくれそうにないと心配した直後、「そのときはウチで働きなさい」と口にした。

 バーンズと生徒たちが一枚岩になると、新たな敵が必要となってくる。そこで第31回(5月11日)から看護婦見習い編が始まった。実習の場は帝都医科大附属病院編。敵は高慢な医師たち、専門教育を受けていない看病婦、一筋縄ではいかない患者たちである。

 敵の出現が相次ぐが、ワンパターンではない。敵との対立と融和を繰り返すのが朝ドラのヒットの方程式の1つである。

 りんは現在、武家出身の華族・和泉千佳子(仲間由紀恵)を担当している。乳がんだ。担当した途端、「奥様のお辛い気持ちはよく分かります」と自信満々で言い、激怒させてしまった。相手が病人でなくとも軽々と口にすべきではない言葉だ(第37回、同19日)。やっぱり、どこか無神経なのだ。

 りんは落ち込む。それでも間を置かず、「私に奥様の本当の気持ちは分かりません」(第38回、20日)と前言を翻せるのだから、図太くもある。ヒロイン2人はどちらも面白い。

 最後に重箱の隅をつつかせてもらう。りんの栃木県那須地方のイントネーションが、千佳子との会話のときだけ消えるのはどうしてなのだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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