【特別読物】「救うこと、救われること」(15) 朝井リョウさん

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 大学在学中にデビューし、作家生活16年目を迎えた朝井リョウさん。『何者』で直木賞を受賞、その後も次々と話題作を世に送り、最新作の『イン・ザ・メガチャーチ』(本屋大賞受賞)では、ファンダム経済を舞台に“今、人を動かすものは何なのか”という問いに迫った。

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『イン・ザ・メガチャーチ』の発売から半年以上経ちますが、予想以上に多くの方が読んでくださって、とてもうれしく思っています。日本経済新聞の連載だったので、読者層を考えると、ファンダム経済の話でいいのか結構不安でした。

 私自身は子供の頃からASAYANを筆頭に、主にアイドルのオーディション番組が大好きだったのですが、逆にあまりにも身近過ぎて小説のモチーフになるとは思っていませんでした。そこに宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』(芥川賞受賞作)が登場し、この世界が小説の題材になり得ると気付かせてもらったのです。

コロナ禍とファンダム経済

 連載の依頼を受けたのはコロナ前でしたが、コロナ禍を経て社会の様子はずいぶん変わりました。ライブが配信で見られるようになり、食事のデリバリーサービスが普及し、仕事もリモートで出来るなど、外出の必要性が減少しました。他方、経済状況は厳しくなって、支出を抑える風潮は高まっていると感じます。

 外出と支出。この、世の中的には減少している二つの要素が、ファンダムと呼ばれる場所ではむしろ増大しているように思います。聖地巡礼も盛んですし、ファンダムによっては“私たちが経済を回している”という言い回しもよく聞きます。そこに注目すれば、現代人の行動原理を深掘りできるのでは、という予感がありました。

 昨今「推す側」のフィクションはとても増えましたよね。ただ私が書きたかったのは、「“推す”システムを構築する側」、つまり人に行動を起こさせる側。というか、どちらの立場も等しく書いてこそ浮かび上がるものがあると感じていました。ファンダム経済という、今っぽい響きがあるものが舞台となっていますが、さまざまなファンダムの動きを見ていると、世界史で習ったようなことが再演されていると感じることも多いです。そこに迫れれば、普遍性が宿ると思いました。

 タイトルにあるメガチャーチは、アメリカの、主に宗教右派が集う巨大教会のことです。2、3千人ほど収容できるところも多いみたいで、礼拝だけでなくライブのようなものが行われたりもするそうです。日本で暮らしているとピンと来ない文化ですが、日本には、全国津々浦々どこでも2、3千人を収容できるホールがあります。ミュージシャンが47都道府県ツアーができるくらいには整備された施設がすでにあるんです。そう考えると、それが教会と呼ばれていないだけで、すでにそれらしきものはある、と言えるのかもしれない。そういう部分からも、今回の小説は別に特殊な世界を描いたものでなく、あらゆるものと地続きであることが伝わると嬉しいです。

書くことは飽きずに続いた

 私自身のことを言うと、3歳上の姉が本好きだったので、追いかけて同じ本を読んだり絵本を描いたりしていました。小学3年の時に我が家にWindows95がやってきて、タイピングを覚えたら、どんどん長いものが書けるようになってすっかり夢中になりました。

 小学校時代から小説を書いていたので、作文も読書感想文も全然苦にならず、すごくラッキーだと思っていました。中学生になると、ウェブの小説投稿掲示板に投稿して見知らぬ読者から感想をもらっていました。読者に焦がれていたんです。感想が欲しくて、夏休みの自由研究を小説で提出させてもらって、先生からも感想を聞いてました。小説は夏休みでないときに書き終えていたので、夏休み中はめっちゃ楽でした。中学2年の頃、『バトル・ロワイアル』がブームになったときは、自分のクラスを舞台に「バトル・ロワイアル」を書いたりしましたね。当時、綿矢りささんや金原ひとみさんが芥川賞を受賞されていて、お二人のことはすごく印象に残りました。

 大学入学で上京してしばらくは、バイトを始めたり、新しい環境に振り回されて、小説の優先順位は下がっていたのですが、大学1年の終わりごろ、綿矢さんや金原さんはこの年齢で芥川賞取ったんだと思い出しまして、そこから一念発起して書いたのが、『桐島、部活やめるってよ』でした。綿矢さん金原さんが目標であり、かつ呪いでもあったというか、自分より4、5歳上の輝かしい存在が刺激になっていました。

読み書きが仕事になってよかった

 私にとって読み書きが仕事になったのは、めちゃめちゃ救われているなと思っています。本当になくならないんです、やることが。次に読む本が必ず待機しているし、書かなきゃいけないものも必ずある。

 長編を書き終えた直後などは、もう泉は枯れ果てましたという気持ちに一旦はなるんですが、エッセイなどを書いたりしてしばらく経つと、次はこれだな、というのが湧き出てくるんです。なので、そこはもうすごく楽観的に考えていますね。

 しかも、本って、いくら没頭しても熱中してもなぜか誰からも糾弾されない。そればかりか、子供の頃から家で小説を書くことに夢中になっていたのに、やめなさいとも勉強しなさいとも言われませんでした。どれだけ読んでも書いても許されていたというのは、実に不思議なことですが、私はずっとこの不思議に救われてきたと思っています。

■提供:真如苑

朝井リョウ
1989年、岐阜県生まれ。小説家。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞、『正欲』で柴田錬三郎賞、『イン・ザ・メガチャーチ』で本屋大賞を受賞。他に、『スター』『生殖記』など著書多数。

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