なぜ、朝ドラ「風、薫る」は急に面白くなったのか “ダブルヒロイン”が輝き始めた決定的な転機

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朝ドラの方程式

 朝ドラを経験したNHK制作者に教えてもらったことだが、朝ドラはキャラクターを動かすドラマの典型でもあるという。たとえば、ヒロインや登場人物が困難や試練に立ち向かう展開をあえてつくり、視聴者をやきもきさせる。ヒロインの幸福を視聴者も喜ぶように構成する。ただし、キャラが不鮮明だと、動かすことが出来ない。

 ヒロインが2人いると、関係人物も2倍になる。登場人物たちのキャラを浮き彫りにするのに時間がかかる。なかなか身近に感じられない。それが看護学校編入りしたことより、キャラが一気に明瞭になった。

 個性豊かでキャラの分かりやすい教師とクラスメートの登場も大きなプラスだったのは言うまでもない。物語が膨らんだ。まず教師のマーガレット・バーンズ(エマ・ハワード)。厳しいが、看護婦の精神と技術を知り尽くし、生徒たちに深い愛情を注いでいる。

 りんと直美以外の生徒はまず医師の娘で自分も医師になりたかった玉田多江(生田絵梨花)。青森の農家出身で素直で純粋な工藤トメ(原嶋凜)。ナイチンゲールに心酔する子爵令嬢・東雲ゆき(中井友望)。

 さらに看護婦の制服に憧れたことが志望動機の大商店の娘・柳田しのぶ(木越明)。32歳のクリスチャン・泉喜代(菊池亜希子)である。

 いくら個性派が揃おうが、7人にまとまりがないと、面白味を出しにくい。だが、その辺もぬかりない。定石通りであるものの、7人に対し共通の困難を与えた。さらに全員にとっての敵をつくった。それによって結束へと導いた。

 最初の困難は「オブザーブ」を訳すこと。この言葉は看護婦の教科書に22か所も出て来たという。看護婦の仕事は「オブザーブ」が大切らしい。現代人なら「発言権のない傍聴者」などと条件反射的に即答するだろうが、当時は英語教育が始まったばかり。また傍聴者という訳では看護の用語として、しっくり来ない。

 教会で生きた英語を学んだ直美たちが出した答えは「患者をじっと、よく見ること。患者の様子を包み込むように見ること」だった。看護婦にとって大切な仕事だった。膝を打った人が多いのではないか。

 答えが出るまでには紆余曲折があった。まず直美と多江の確執。多江も英語を学んでいた。何かのエキスパート同士が対立するのはよくあることだ。

 さらに、りんが直美に英語をみんなにも教えるべきだと主張したことから、2人はぶつかる。直美は教えることを拒んだ。ここでもりんの無神経さが出た。直美は教える立場ではない。

 だが、これも制作陣の計略。7人の結束を強固なものにするため、あえて衝突させた。りんは直美への言葉を反省する。いつもの「間違えた!」である。語学は自分で辞書や文献を読まないと習得が遠ざかる。一方で直美もりんの言葉に素直になれなかった自分を悔いた。2人はそれぞれ考えをあらため、「オブザーブ」の意味を調べる。

 それによって得られた成果を2人はほかの5人に惜しみなく伝えた。バーンズを前にした「オブザーブ」の意味の発表は、多江を代表とし、全員で行った。誰の手柄でもなかった。感動的だった。

「オブザーブ」という言葉を題材に選んだことを始め、よく考えられたエピソードだった。第23回(4月29日)から第25回(5月1日)までで描かれた。

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