赤字87億円、社員の退社ラッシュ、制作費削減…「悪ふざけ」「内輪ノリ」「業界感」フジテレビが直面する課題とは

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

変化のきざしあり

 2026年春の改編では「FUJI FUTURE UPDATE~コンテンツラインナップ発表会~」を開き、放送だけでなくFOD、TVer、グローバルビジネスまで含めた「コンテンツカンパニー」への進化を打ち出した。コンテンツ戦略として「ヒートMAX」を掲げ、ファンとの深いエンゲージメントや熱狂を軸にした番組作りを進める方針を示している。

 4月改編ではゴールデンタイムで37.1%、プライムタイムで40.6%という大規模な改編を行った。

 具体的な番組に関しても、変化のきざしはある。火曜午後7時には、カズレーザーとニューヨークを起用し、世の中の気になるテーマを独自の視点で掘り下げる調査型バラエティ「超調査チューズデイ~気になる答え今夜出します~」が始まった。

 木曜午後7時には、フジテレビのゴールデンタイムでは10年ぶりとなる音楽番組「STAR」を投入。新人らしからぬ落ち着きを見せる上垣皓太朗アナウンサーの司会ぶりも話題になっている。また、深夜からゴールデンに昇格した「タイムレスマン」も、timeleszのファンダムを軸に番組を育てようとする意図が明確である。

 これらの試みは、一定のレベルでは評価できる。かつてのように、漫然と大物タレントを並べて、番組を作るのではなく、新しいものを提示して視聴者を掘り起こそうとする意図が感じられるからだ。特に「STAR」のように音楽ファンダムの熱狂を取り込もうとする番組や、「タイムレスマン」のようにグループの成長物語と番組を連動させる企画には、今のテレビが生き残るためのヒントがある。

 テレビはもはや、ただ広く浅く見られるだけでは成立しにくい。濃いファンがつき、SNSで語られ、配信でも見られ、イベントやグッズにも展開できるような「育つコンテンツ」が必要になっている。その意味で、フジテレビが「熱」をキーワードに掲げたこと自体は、決して的外れではない。

 ただ、現時点では、これらの新しい試みがまだ「フジテレビが本当に変わった」という実感にまではつながっていない。アナウンサーやスタッフの人材流出も相次いでいるし、制作費削減の影響でスケールの大きい番組作りが難しくなっている。まだまだ課題は山積みの状態である。

 今回の赤字転落は、フジテレビにとって終わりの始まりではない。むしろ、これまで先送りにしてきた問題を直視するための、痛みを伴う改革の出発点である。新しい試みは始まっていて、方向性にも一定の妥当性はある。しかし、それがまだ局全体の信頼回復に結びつくほどの力にはなっていない。

 フジテレビが本当に再生するためには、「フジテレビらしさ」を捨てるのではなく、それを現代の倫理と接続した上で、新しい文化を作らなければいけないのだろう。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。