父の棺の前で母の不貞の真相を知り「最低な血」を自覚。既婚女性ばかり求める42歳男性の孤独

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父の小狡さ

 辛辣な口調で彼は言った。父はそれきり干渉してこなくなった。だがそれは、父への勝利感とはならなかった。「くだらない親と闘う気にはなれなかった」だけだ。経営者でもある父は、家族には横暴であっても社会的にはどこか尊敬できるものを持っているのではないかと彼はずっと思っていた。ところが長年、見てきてわかったのは、父はただの横暴な男で、社会的には継ぎ接ぎだらけで「ちゃんとしているように見せている」だけだったことだ。実際の会社経営は、祖父の代からいた古参の社員ががんばっていたし、情けがあるように見えていたのもその古参社員の入れ知恵だった。雄輔さんは父の小狡さを嫌悪した。

「家から離れて東京の大学へ行ってから、ようやく肩の力を抜いて生きることができるようになりました。というか、自分がいつも体中に力を入れていたことに気づいたんです。アパートでのひとり暮らしは快適でした。友だちと遊んだり勉強したりサボったり、アルバイトをしたりと、ごく普通の学生生活を送ったけど、やはり心の中はあまり明るくはなかったと思います」

初めて見た普通の家族

 都内在住の友人の家に行ったことがある。時分時になって、夕飯を食べていけと言われて、その家族とともに食卓についた。友人の父は、その日に会社であったおもしろかったことを話し、母や彼の妹はツッコミを入れて笑っていた。

「家族ってこうやって笑ったりするんだと、それまでの人生でいちばんびっくりしたかもしれません。いや、そういうことがあるのはテレビなどで見知っていたけど、実際に見たのは初めてだったから」

 そして雄輔さんは、その友人の妹とつきあい始めた。ところがその関係は半年足らずで終わった。人を好きになること、恋をすること、そして相手を大事に思うこと。そのすべてが雄輔さんには不足していた。

「その代わりと言うべきか何と言うべきか、アルバイトをしていた喫茶店のオーナーの奥さんとつきあうようになってしまったんです。つきあうといっても信頼関係があるわけじゃなくて、今で言えばセフレみたいなものです。彼女の欲求に合わせて呼び出されるだけの関係。彼女は優しかったし、僕も懐いていたけれど、やはり恋ではないと思う」

 結局、オーナーにバレて土下座させられた。僕が悪いので離婚などしないでくださいと訴えると、オーナーは泣きながら「オレは妻を愛してる。別れるわけないだろ」と怒鳴った。愛している妻に浮気された男が、腹を立てるより先に悲しむこともあるのだと雄輔さんは知った。

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