「銀河の一票」を明るい「選挙ドラマ」と思っていたら…黒木華×野呂佳代の物語に潜む“不朽の名作”

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賢治と重なり合うドラマ

 一方、茉莉とあかりの「旅」も既に始まっている。茉莉たちが会っているのは足が不自由な桃花、認知症のために施設に入っている「スナックとし子」のママ・鴨井とし子(木野花)、ワーキングプア状態に陥った青年・野原北斗(阿久津仁愛)らである。

 ジョバンニたちは旅によって普段は目に出来ない魂を見た。茉莉たちが出会っているのはもちろん目に見える人たちだが、社会全体から十分に見えているとは言えない。

 桃花もこう口にした。「私たちはいない人」(第1回)。健常者には自分たちが見えていないからだ。視覚障がい者の歩行に有用な点字ブロックを無意味にする迷惑行為も描かれた。第1回と第2回、第4回と3度も。これも健常者には視覚障がい者が見えていないという描写にほかならない。

 第3回では認知症の人などに深く関わる成年後見人制度の問題点を掘り下げた。施設で介護をしている青年職員・相良大樹(伊能昌幸)の年収が約200万円であることも取り上げられた。都の平均年収は約644万円。茉莉は「いけないです」と語気を強めた。認知症と施設のこともよく見えていないということである。

 茉莉らは「旅」によって成長し、あかりが都知事になれたあとに何をすべきか明瞭に見えた。それは最初から見えていた。やはり宮澤賢治の言葉である。「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論綱要』)

 ただし、茉莉もあかりも幸福が何であるかは分かっていない。旅の途中だった時点のジョバンニたちと同じだ。「ほんとうの幸いは一体なんだろう」(ジョバンニ)、「僕わからない」(カムパネルラ)。この言葉は第3回のあかりと茉莉の間でも交わされた。

『銀河鉄道の夜』における「本当の幸い」とは他者のための自己犠牲と献身であることが浮かび上がる。賢治自身の生き方が色濃く反映されている。あかりが当選し、茉莉が副知事に指名されたら、2人も都民のために献身するのだろう。

 ただし、当選するかどうかは見当も付かない。腕利きの選挙参謀・五十嵐隼人(岩谷健司)を味方に付けたとはいえ、対立候補は与党の日山だ。金も力もある。

 与党はおそらく、第2回で示唆されたあかりの過去を突いてくる。それが家族に関わるものなら、保護者責任をあげつらう展開もありうる。汚い手だが、茉莉たちも医科大の学部長の死を利用しようとしているのだから仕方がない。同じ穴のムジナだ。

 ここからは作品がどう判断するのかは分からないが、カムパネルラは既に死んでいる。銀河鉄道は死者の魂を運ぶ汽車であり、カムパネルラも魂だった。ジョバンニをいじめていたクラスメイトが川で溺れたため、カムパネルラが助けた。クラスメイトは助かったものの、カムパネルラは溺死する。どこまでも自己犠牲の少年だった。

 いじめっ子のクラスメイトの名前はザネリ。鷹臣が死に関わった疑いのある医科大の学部長は新座値利(にいざ・ねり)。読みの一部が一致する。もしかすると、本当に鷹臣は新座を死に追いやったのかも知れない。ただし、茉莉の想像を超え、新座が瑠璃に危険な治療などを施し、死なせてしまった場合である。

『銀河鉄道の夜』は、ジョバンニが、カムパネルラが死んだ悲しみに立ち向かう物語でもある。この選挙によって強くなるであろう茉莉も瑠璃を失った悲しみから再生するのではないか。茉莉は瑠璃の死から立ち直れていない。だからミニライトを離せない。継母の桃花にも理由なく反抗している。

 選挙にばかり目を向けていると、全体像を見失いそうな作品だ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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