“AI堕ち”とボコボコに叩かれたイラストレーター「七瀬葵」…それでも「コミケから生成AIの創作物を排除しちゃダメ」と語る理由

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ベテランほど生成AIに寛容?

――SNSでは、生成AIに肯定的な考えを示すベテラン漫画家を“老害”と呼ぶ人もいます。若い人たちほど反発しているように思いますが、なぜだと考えますか。

七瀬:今の若い人たちのほとんどは、デジタルネイティブです。最初からデジタルで絵を描き始め、デジタルの環境で一生懸命絵を練習して、やっと上手に描けるようになったのでしょう。そのタイミングで生成AIが出現したわけです。自分が努力してきたものが潰されると思うと、嫌で仕方ないのではないでしょうか。

 私は初めて同人誌即売会に出たときから、アナログで絵を描いてきました。ところが、1990年代後半にデジタル化の流れがきて、それまで培ったアナログの技術から転換し、デジタルをゼロから学び直さなければいけませんでした。このように、テクノロジーが変革するときは、足元からひっくり返るのが当たり前なのです。

 若い人たちはまだ、変革を味わったことがないかもしれません。私はそうした変化を何度も経験しているので、生成AIに対しても「ああ、またか」と思っています。とはいえ、大きな変革だとは思いますから、抵抗があって当たり前でしょう。何年間も培ってきた技術が突然意味がないものにされたら、無力感が生まれるのは当然かもしれません。

――産業革命で機械化が進んだときは多くの職人が仕事を失いましたが、それと同じ感覚を味わっているのかもしれませんね。

七瀬:環境の変化に適応できないクリエイターは、自然と淘汰されていくことでしょう。新しいものに対応するよう努力しないと席がなくなるという経験も私は味わってきましたし、実際に周りがそうなるのを見てきました。だからこそ、クリエイターはいろいろなものに興味をもち、首を突っ込むべき。新しい技術を見て、「これはまずい」などと言っているようでは、凡人クラスだと思いますね。

二次創作が禁止される恐れも

――私が取材したある大御所の漫画家は、「生成AIよりも18禁の二次創作物のほうが著作者人格権を侵害している」と言っていました。著作権に関する考え方も、クリエイターによってかなり異なりますね。

七瀬:同人作家でありながら、生成AIの著作権侵害を非難し、過度に無断利用を問題視しだすと、二次創作までもが規制の対象になりそうで、私は嫌なのです。そもそも同人誌で、大手IPのキャラを公式の許諾を得ずに勝手に描いているのを棚に上げて、「生成AIは他人の絵柄を盗んでいる」「生成AIだけ規制しろ」と言うのはおかしいと思いませんか。

――ナコルルの同人誌で一世を風靡した七瀬先生が言うと、重みがありますね。

七瀬:企業を巻き込んだ騒動になると、同人誌即売会の規制にまで発展しかねません。だから、生成AIに反対する人たちは、余計な騒動を起こさないでほしいと思います。「生成AIに盗まれるので、絵柄も著作権で保護すべきだ」という意見もありますが、そんなことを言い出したら、新しいものは何も作れなくなってしまいますよ。

 私が90年代に試行錯誤して作り出した絵柄は、たくさんの人が模倣しました。私は絵柄を大事にしていたのでつらかったし、悲しかった。でも、著作権では絵柄は保護されないとわかっていたので、何も言いませんでした。今になって、生成AIに反対する人たちが「絵柄を守るべきだ」と主張するなら、私の絵柄を真似した人たちにも同じことを言ってほしいです。

――今後、イラストの世界で生成AIの存在感は高まっていくのでしょうか。

七瀬:10年後くらいには生成AIイラストというカテゴリーが、クリエイティブの中心になると思います。誰でも生成AIでイラストを出せると思われていますが、プロンプトの書き方で個性が生まれるため、既に作風で差別化を図っている人もいます。今後はそうした生成AIクリエイターのブランド化が進んでいくはずです。

 そうしたなかで、デジタル中心で絵を描いている人は、この先どうするんだろうなと思います。私は、既に絵師自体は飽和状態だと思う。名前を把握できないくらい、たくさんの絵師がいますからね。だからこそ、「なにもかも生成AIのせいにしているんじゃないよ」と言いたい。他責思考、被害妄想では、気が付いたら自分だけ取り残されていたということになってしまいますよ。具体的な行動を起こさないなら、これから絵師が生き残るのは厳しいのではないでしょうか。

 第1回【“コミケの女帝”と呼ばれたイラストレーター「七瀬葵」が語り明かす…90年代コミックマーケット「伝説」と「騒動」の真相】では、イラストレーターの七瀬葵氏に、1990年代コミックマーケットで七瀬氏が残した数々の伝説について、その真相とともに、当時の心境を語っていただきました。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部

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